ファースト・インパクトを超える開花を可能にしたものの正体

グレタ・ヴァン・フリート『ザ・バトル・アット・ガーデンズ・ゲート』
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グレタ・ヴァン・フリート ザ・バトル・アット・ガーデンズ・ゲート

若き新星に対する評価というものには「年齢やキャリアに見合わぬ実力とセンス」とか「誰某の再来か?」といった表現がつきものだが、そこには「若いわりにはすごい」けども「先人たちには所詮及ばない」という諦めめいた上から目線が少なからず伴いがちだ。片田舎と形容して差し支えないであろうミシガン州の小さな町に生まれ育ち、「双子の兄弟プラスその弟と幼馴染み」というごく狭い成り立ちをしたこのバンドがシーンに放たれたのは、4人の平均年齢が20歳にも満たなかった2017年のこと。

そして2018年10月に発表されたデビュー作『アンセム・オブ・ザ・ピースフル・アーミー』に対する世界的な反響の大きさとそれに伴う活動経験は、敢えて手垢にまみれた言い方をするならば、飛躍的な成長と視野の広がりをバンドにもたらす結果となった。それを証明しているのが、この第2作である。

豪快なギター・リフとハイトーン・ボーカルが印象的な、ブルースとフォークを基盤とするあくまでベーシックなその演奏スタイルは、当初からレッド・ツェッペリンを引き合いに出しながら、いまどきの若い世代らしからぬアナログな感触ともども、今日における稀有さという意味も含め、驚きをもって受け止められてきた。ただ、出発点が歴史上の何かと共通性のある座標にあったとしても、そこからの道程が過去と同じように進んでいくわけではない。

ごく狭い世界で純正培養されたものが形を成し、ある種のギャップ込みで評判を呼んだのが前作ということになるはずだが、それから今作誕生に至るまでの経過の間に、彼らの中には、遠い過去から現在に至るまでのありとあらゆる情報が一気に流入している。
それによって自分たちのルーツと認識してきたものについての解釈のみならず今様の音楽のテクノロジーや構造、世の中の仕組みについての理解も当然のように深め、全体の中で自分たちが平均からどれほど離れた距離にあるのかも自覚できているのが今作での彼らなのだ。

同時に、彼ら自身の人間的成長もまた今作に飛躍をもたらす要因のひとつとなっているはずだ。まわりを知らぬまま育った主観は、自分たちの音楽に寄せられる世界的共鳴を後ろ盾としながら揺るぎないものになり、しかもデビュー当時には持ち合わせていなかった類の客観性をも現在の彼らは獲得している。

つまり、前作に称賛の声をあげた人たちが次に何を求めているかをある程度想像できた状態で、単純にそれに沿ったものを創造するのではなく、さらなる自己探求の道を進んでいるのだ。
各々の収録曲が、自由、コミュニティの力、母なる地球への敬意、といった哲学的かつ普遍的なテーマに則りながら作られている事実は、そんな音楽的探究と足並みを揃えながら、この年代ならではの「自分さがし」めいたものが4人の中で同時進行していることを窺わせる。

インパクトの強いデビュー作を形にすること以上に、第2作でいっそう大きな花を咲かせることのほうが難しいものだ。小さな成長は見落とされてしまいがちだし、現状維持は失速と受け止められ兼ねない。とはいえあまりに飛躍的な変化というのも危険を伴う場合がある。
今作における彼らの進化と深化はかなり歩幅の大きなものではあるが、同時に、前作により浸透したパブリック・イメージから大きく逸脱したものではない。彼らに共鳴するリスナーたちからの信頼や期待を裏切ることのないものでありつつ、「そこまで行かれるとついていけない」と思わせる類の作品にはなっていないのだ。

そうした進化・深化を絶妙のさじ加減で操縦しているのが、フー・ファイターズの最新作でも手腕を振るっていたプロデューサー、グレッグ・カースティンということになるだろう。演奏機会を重ねていくほどに成長し続け、下手をすれば膨張に歯止めが利かなくなる彼らの楽曲について、作品化するうえで好ましいタイミングでストップをかけ、各曲が有機的に嚙み合うバランスを見極めたのも彼だったのではないだろうか。

とにかく作品全体を通じていえるのは、スケールがいっそう大きくなり、音楽が連想させる情景が広がりを増しているということ。映像的とさえいえる楽曲も増えていて(ジョシュ・キスカは幼い頃から映像分野にも強い興味を持っていたそうだ)、自分たちがどう見られているのかを踏まえたうえで、きっぱりと「こう見せたい」と主張している。そんな彼らの音楽が本当にロックの未来形であるのか否かはともかく、このバンドが単なるレトロとして片付けられ得る存在ではないことは間違いない。この音楽が現在において古いのか新しいのかという答えを急ぐ必要はない。今はこの新たな傑作誕生に、素直に拍手を捧げたい。 (増田勇一)



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