蒼き夢、叶わぬ恋にも似た憧れ

ウィーザー『ヴァン・ウィーザー』
発売中
ALBUM
ウィーザー ヴァン・ウィーザー

ストリングスの大胆導入が作品の色を決めることになった『オーケー・ヒューマン』の登場からわずか3ヶ月と少々。おそろしく速いリリース・ペースではあるが、そもそも同作の前にこちらが出るはずだったのだから当然といえば当然ではある。発売順を逆にしたのはパンデミックの影響とも言われているが、この表題から誰もが連想しないはずもないエディ・ヴァン・ヘイレン(昨年10月6日に逝去)の他界後すぐには出したくなかったからでもあるのだろう。前々から制作が伝えられていた「ウィーザーなりのメタル・アルバム」が満を持して登場となった。

そもそも彼らがメタル好きであることは、かつて自らのロゴをジューダス・プリースト風にアレンジしたTシャツなどを発売していた事実からも察することができていたし、リヴァース・クオモの素性に詳しい読者ならば彼がキッスのファンであること、ハリウッドがロックの聖地だった時代にガンズ・アンド・ローゼズに憧れて東海岸からロサンゼルスへと居を移していることなどをご存じだろう。

この6月をもって51歳になる彼からすれば、80年代メタルはまさに青春のサウンドトラック。彼よりも若干年上にあたる他のメンバーたちもそうした背景に大差はないはずだ。こうして自分たちの多面性や音楽的背景を解き明かすような作品を連発してきた中で、メタルをキーワードとするものが出てくるのはごく自然なことだともいえる。

とはいえ、いわゆるメタル・ヘッズを唸らせるような重厚な作品というわけではないし、「あのウィーザーが、ついに!」などと構えて聴くと、むしろ肩透かしを喰らう。確かにエディ・ヴァン・ヘイレンが開発し、その後続たちがより華やかなものにした80年代的メタル・ギターの要素はあちこちにちりばめられているが、リフでぐいぐいと押しまくるわけでも、1オクターブ上のキーで歌うわけでもなく、無条件に拳を突き上げたくなるような扇動性もない。結果的に証明されているのは、ここ数作と同様、どんな音楽的手法をとろうと結局のところウィーザーはウィーザーであり、彼らの本質は変わりようがないということに他ならない。

ただ、往年のメタルやアリーナ・ロックに精通している人たちには、ニヤリとさせられるポイントが多いことも間違いない。もっともわかりやすいのは“ジ・エンド・オブ・ザ・ゲーム”の冒頭のギターや、オジー・オズボーンの“クレイジー・トレイン”の存在なしにはこうならなかったはずの“ブルー・ドリーム”だが、それでも音符の高低差が少ない歌メロはウィーザーそのもの。“アイ・ニード・サム・オブ・ザット”のイントロはエイジアとドッケンの有名曲を掛け合わせたかのような印象でもあるし、“プレシャス・メタル・ガール”の歌詞にはファスター・プッシーキャットやL.A.ガンズの名前も出てくる。

そうした断片的要素の数々から感じられるのは、かつて多感な頃に憧れた(けども自分には似合わなかった)ものへの想いの不変さだ。そこに、パロディとは一線を画する美しさがある。素敵だ。(増田勇一)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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ウィーザー ヴァン・ウィーザー - 『rockin'on』2021年7月号『rockin'on』2021年7月号

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