驚異的なアルバムだ。ダニー・エルフマンといえば、バンドというより演劇も音楽もやる総合パフォーマンス集団オインゴ・ボインゴのリーダーを務め、その後ガス・ヴァン・サントやティム・バートンらの映画作品の音楽を担当した映画音楽家として知られる人物。
そんな彼が37年ぶりのソロ・アルバムをリリースするというだけでも驚きだが、何よりその中身が、ヘヴィで攻撃的なインダストリアル・ロックとなっているのだ。
何でも元々レコードを作る予定はなかったそうだが、出演するはずだったコーチェラ・フェスティバルがキャンセルになったことで曲作りの意欲が燃え盛り、このような大作が出来上がったという。激しく重たいビートが叩きつけられるなか、狂おしいギターが鳴り響き、荘厳なオーケストラが轟くナンバーがずらっと並んでいる。
60代後半に差しかかっているエルフマンのバリトン・ボイスによる朗々とした歌唱も圧巻で、楽曲の演劇性の高さやドラマチックさに拍車をかける。ナイン・インチ・ネイルズのアルバム群と比べても遜色ないダークさで、「Big Mess(大混乱)」を一大音絵巻に仕立てているのだ。
ガルシア=マルケスによる古典『コレラの時代の愛』に引っかけた“Love in The Time of COVID(コロナの時代の愛)”に象徴されるように、このダークネスやヘヴィネスはパンデミック以降に蓄積された鬱屈がベースになっている。
オインゴ・ボインゴの楽曲“Insects”のセルフ・カバーはアメリカ型資本主義が生み出す不平等を訴えるものに書き換えられているというし、もはや大御所のエルフマンがキャリアを懸けて現代社会の歪みを告発しようとしている姿勢に圧倒される。軽く聴き流すことなどできない、強烈なカオスが渦巻いている。(木津毅)
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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