20年前の秘蔵音源による最新ライブ・アルバムである。キッスらしからぬ簡素なアートワークからは海賊盤的な匂いが漂うが、バンド側も本作がいわゆるオフィシャル・ブートレッグ的なものであること、そして、これを第1弾としながらシリーズ化の可能性があることを認めている。
ツアー活動からの引退を表明している彼らは、新たなオリジナル作品制作の必然性についてだいぶ否定的な発言をしているが、確かにこうした手段をとれば今後のリリースも途切れずに済むだろう。その手があったか、と感心させられる。
何よりも重要なのは、商品のパッケージングの完璧さというものについて常にこだわり抜いてきたはずの彼らが、こうしてほぼ無編集と思しきライブ音源を公式に世に出すことにしたという事実だろう。そうした意味において本作は『アライヴ!〜地獄の狂獣』をはじめとする彼らの歴史を彩ってきた名作ライブ・アルバムの数々とは別次元のものということになるはずだ。
しかも2001年の東京公演といえば、オリジナル・ラインナップ再集結後のフェアウェル・ツアーの一環でありながら、その一角を担っていたピーター・クリスが来日直前に脱退し、現メンバーでもあるエリック・シンガーを擁する変則的布陣で実施されたもの。そうした特例的ライブの音源をこうして堂々とシリーズ第1弾として世に送り出すことができるのは、ポールとジーンの両巨頭が本当に“あの4人”であることを重く見ていない証拠だろう。
だからこそ今後、さまざまな時代、さまざまな状況下での音源が世に出てくることを期待したくなる。肝心の音源については、丸ごと収録されているMCなども含め、とにかく生々しく若々しい。当時ですら彼らはすでに50歳前後だったというのに。(増田勇一)
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