美しくビターなラブ・ソングス

ボビー・ギレスピー&ジェニー・ベス『ユートピアン・アッシェズ』
発売中
ALBUM
ボビー・ギレスピー&ジェニー・ベス ユートピアン・アッシェズ

プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーはこれまで、様々な形で女性シンガーとのデュエットを残してきている。なかでもケイト・モスやスカイ・フェレイラとの共演は有名だが、丸々アルバムを制作するのは今作が初になる。

相対するのは、サヴェージズのジェニー・ベス。制作には、プライマルのイネスやダフィーら、そしてサヴェージズやジェニーのソロもサポートするジョニー・ホスティルが参加。さながら両バンドのコラボ的な様相を呈している。

もっとも、先行曲の“チェイス・イット・ダウン”や“リメンバー・ウィ・ワー〜”の予告通り、サウンドや曲調はトラディショナルな嗜好が際立つ作りとなっている。いわばソングライティングに重きが置かれた作風で、フォーク・ロックやカントリー、ソウルを基調とした楽曲にはレイドバックしたムードもうかがえる。

そもそも両者の馴れ初めは、5年前にプライマルのステージでナンシー・シナトラとリー・ヘイズルウッドの名曲“サム・ヴェルヴェット・モーニング”をデュエットしたことだそうだが、インスピレーションになったというグラム・パーソンズとエミルー・ハリスの名演も思わせる好相性を披露している。“ユー・ドント・ノウ・ホワット〜”の熱っぽいピアノ・バラッドは、ニック・ケイヴPJハーヴェイの共演を想起させてスリリングだ。

ジェニー曰くテーマは「結婚生活の緩やかな崩壊」。歌詞は痛みを伴うダークな内容だが、しかし、美しく洗練されたサウンドにのせてその喪失感や葛藤の先にある希望や「再生」を見つけようとする男女の姿が描かれている。まさに大人の、成熟した愛の形を歌い上げラブ・ソングス。続編を求めるよりむしろ、一期一会の結晶として心ゆくまで堪能したい。(天井潤之介)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。

ボビー・ギレスピー&ジェニー・ベス ユートピアン・アッシェズ - 『rockin'on』2021年8月号『rockin'on』2021年8月号

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