あらゆる場所を包みこむ愛

ジャクソン・ブラウン『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』
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ALBUM

ジャクソン・ブラウンの約7年ぶりのオリジナル・アルバム『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』は、“スティル・ルッキング・フォー・サムシング”(今だってなにかを探してる)という曲名のフレーズを歌うことから始まる。

その言葉の通り、彼は様々なことがらを曲の題材にしている。人工心臓、移民、人種差別。アルバム・タイトル曲の「あらゆる場所から下の方へ」は、流れこんだプラスチックによる海洋汚染を意味しており、原油タンカー解体の写真を使ったジャケットとともに、環境問題を意識した内容である。

このように歌詞の面では社会派だが、怒りを叩きつける調子の音楽ではない。アコースティック・ギター、スライド・ギターを要所に使ったアレンジは、あくまでしなやか。ギター・リフ中心のロックな曲も力むことなく軽快。優しく大らかなサウンドだし、説教するのではなく、君はどう思う?と穏やかに問いかける作品になっている。

同性愛者をモチーフにした内容をシンガーソングライターのレスリー・メンデルソンと男女でデュエットした“ヒューマン・タッチ”。大地震に遭ったハイチの人々を歌った“ラヴ・イズ・ラヴ”(愛は愛)。並んだこの2曲からは特に、多様性を大きな愛で包みたいというジャクソンの思いが感じられる。

ラストの“ソング・フォー・バルセロナ”はスペイン風だが、現地ミュージシャンとの録音予定をあえて取り消し、自分のバンドで演奏したという。詞にはアイルランド、アフリカ、中国、ウルグアイなど同国を訪れる人々の出身国の名が多く登場する。様々な土地と土地が関係していることを示す同曲には、世界旅行のような楽しさがある。なるほど新作は、地球のあらゆる場所の希望を歌おうとしたアルバムなのだった。(遠藤利明)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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『rockin'on』2021年8月号