Fukaseの歌から始まり、柔らかな音像のストリングスとピアノが徐々に感情を盛り上げていく、
セカオワ王道とも言えるバラードである“Diary”。王道とは言いながらも、決して既視感があるというわけではない。同じメロディを何度も繰り返すシンプルな構造だからこそ、少しの音符の動きや言葉の変化がビビッドに伝わってくる。それはまるで淡々と続いていく日常で出会い、心を通わせながら続いていく恋そのもののようだ。そして圧巻なのが途中で挿入されるSaoriによるピアノソロ。言葉にはならない記憶が溢れ出るようにして延々と続いていく旋律は、それ自体がひとつの曲のようだし、楽曲全体の中である種サビのようなハイライトを描き出している。一方カップリングの“エンドロール”もいい。“Diary”とは全く違うベクトルではあるものの、こちらもシンプルなサウンドで作られた、とてもパーソナルな匂いを感じる。こちらもまたキモになっているのは歌と並ぶように鳴るギターソロ。楽器にはっきりと体温が宿っているのは、『scent of memory』以降のモードを象徴しているようにも感じる。(小川智宏)
『ROCKIN'ON JAPAN』3月号より