不格好で幼い過去の恋愛すら、尊く美しい。そう思わせてくれるほどに、彼らの彩るラブソングは劇的で、活力に満ちている。消せない記憶を楽曲へと昇華する福岡出身バンドの、メジャー1stフルアルバム。恋に落ちていく瞬間の高揚、遠距離恋愛の切ない心情、愛ゆえの不安、思いを残しつつ別れを決断する決意、未来を見据えた穏やかな愛情、後悔を切々と綴ったバラードなど、恋物語の様々なシーンを切り取った楽曲が揃った。

デジタルリリースされた楽曲と新曲4曲で構成された同作には、バンドの変遷も浮かび上がる。吉田右京（Vo・G）の綴る歌詞は繊細で文学的な描写から、心情を生々しく反映させたシンプルな言葉選びに。サウンド面では複数のプロデューサーとタッグを組み、時に壮大に、時にスタイリッシュに展開する一方、“牙”ではバンドだからこそ成し得るハードかつダイナミックな音像で引きつける。この多彩な表現は、結成からの数年間でひたむきに、熱意を持って楽曲制作と向き合ってきたから実現できたに他ならない。音楽家としての気概に満ちた、フレッシュな作品だ。（沖さやこ）

『ROCKIN'ON JAPAN』7月号より