ジッドから寺山、そしてヨルシカ

ヨルシカ『チノカテ』
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ヨルシカ チノカテ
最新曲はアンドレ・ジッド『地の糧』へのオマージュ。『地の糧』といえば、この書に綴られた言葉をタイトルに引いたのが、寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』であったという系譜がまず思い浮かぶ。そして“チノカテ”もまた、《これから先のもっと先を描いた地図はないんだろうか?》と書物に未来を求めるより、《町へ出よう》と穏やかに語りかける楽曲だ。あたかもジッドが『地の糧』で絶えず語り続けたように、《本当は僕らの心は頭にあった/何を間違えたのか、今じゃ文字の中》という歌詞にも、その思想へのオマージュが滲む。n-buna(G・Composer)自身、言葉を繊細に表現する作家であるが、美しい言葉が単なるファンタジーに埋没しないよう、ヨルシカの楽曲は常に有機的な人間の生を投影する。今作では、花が枯れてしまったことを観念的に嘆き綴るより、花が咲き、散っていく事象をありのまま受け止める心に目を向けようと、suis(Vo)の歌声が深く響く。研ぎ澄ましたバンドサウンドが心象風景をシンプルに映し出し、哲学的なテーマをそっと突きつける。この「読後感」はヨルシカならでは。(杉浦美恵)

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