作品を経るごとにヨルシカは、彼ら固有のミニマリズムと言うべきものを成熟させている。彼らのサウンドや歌には魅惑的な「余白」があって、その余白には、直接的には描かれていないはずの景色や記憶や想いが、漂っているように感じられる。果たして、その記憶は作り手のものなのか、聴き手である自分のものなのか、境目が定かではなくなるくらいに、彼らの生み出す余白から溢れるものは胸に響く。このミニマムさは、n-bunaに影響を与えた俳句などの短詩表現にも通じているといえるだろう。
アニメ『大雪海のカイナ』のオープニングテーマである新曲“テレパス”もまた、そうしたヨルシカのミニマムさが美しく結晶化した一曲である。ループするリリカルなピアノに導かれて、歌詞はふたりの人物の対話を軸に描かれていく。どうにかして自らの心を言語化し伝えようとする人と、その言葉の奥にある「心」を受け止めようとする人。まるで雪が溶けて透明な水になるように透き通っていくふたりの関係が、あたたかくて美しい。言葉を見つめ、沈黙を見つめるからこそ描けた、人と人の姿だ。(天野史彬)
(『ROCKIN'ON JAPAN』3月号より)
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余白から伝わるもの
ヨルシカ『テレパス』
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