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以前、SASUKE名義だった頃の原口沙輔に取材をさせてもらったことがあるが、当時の彼の口から「好きな音楽」として出てきたのはブルーノ・マーズやルイス・コールといった名前で、だから、こうして彼がバーチャルシンガーに手を出すのは意外だった。本名である原口沙輔に改名して以降、彼が生み出す作品の頭の中を曝け出すような内省的な質感には驚かされっぱなしである。皮肉っぽさと茶目っ気は彼の持ち味ではあったが、今はより鋭利に混乱しているし、その混乱を隠すつもりもないようである。「歌ってみた」界隈でも人気を博した“人マニア”に引き続き、重音テトをフィーチャーしたシングル。ポップネスと粗暴さが絡み合い、異様な2分2秒を生み出している。歌詞は安易な共感は受け入れず、自分だけの言葉で語ることへの腹の括りを感じる。《セカイがワタシに/着いてきちゃった!アッチ行け!》――世界への明解な拒絶が、得も言われぬカタルシスを生み出している。(天野史彬)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年1月号より抜粋)
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