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吐息混ざりのウィスパーなボーカリゼーションから始まる“あたしの全部を愛せない”はa子流超ポップソング。歪んだギターリフとホーンが確実にエモーションを高め、「あたし」の欠落や独占欲、そして「あなた」への不安を描いていく。この曲がオープニングテーマになったドラマ『初恋、ざらり』の主人公は「普通」になれない自分に対する劣等感に悩まされていたが、《あたしの全部を愛せない》というラインをa子が歌うと、得も言われぬ絶望感が漂う。他にも、メロウなR&Bチックなトラックの上で時代の閉塞感と「君」へのどこか歪な愛情や欲求がリンクする“trank”、オリエンタルな旋律とパーカッシブなビートが交錯する中、キャッチーな歌メロが全開の“racy”など、メロディが際立ち、ぐっとポップになった。と同時に、内省的で心の底を滲ませるような歌詞世界と、聴き手に近距離で語り掛けるようなウィスパーボイスのマッチングにより刹那的な連帯感を宿すa子の武器は強度が増している。(小松香里)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年2月号より抜粋)
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