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1曲目のタイトル曲“ひとりごと”のイントロから、予想外のアプローチに目を見張った。過去2作のミニアルバムでは山本珠羽の実体験を元にした素直で赤裸々な歌詞を、パンキッシュかつ無骨なギターロックでエネルギッシュに昇華していたが、1stフルアルバムの今作では歌詞に綴られた心模様を多彩で硬派な生演奏、キャッチーなメロディ、芯の強さと透明感を併せ持つボーカルで丁寧に描く。この変化は10代から20代に移り替わる時期特有の、纏う空気が洗練され、顔つきが引き締まる様子とよく似ている。自身や相手の心の奥に向き合った楽曲が多く、複雑な感情の動きを歌詞や音色で率直かつ繊細に切り取る。中でも大人になっていく自分に宛てる“消しゴム”は、得たものも失いかけているものもすべて抱きしめるように切なくあたたかい。以前ならば行き場がなかったであろう感情も、落としどころが見え始めていることを感じ取れる成長の全12曲。それは夜明け前のように感傷的で優美だ。(沖さやこ)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年11月号より)
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