世界を鼓舞する歌

鬼束ちひろ『帰り路をなくして』
2009年07月22日発売
SINGLE
鬼束ちひろ 帰り路をなくして
ひょっとしたら鬼束ちひろにとって、初めてのことかもしれない。新曲は『帰り路をなくして』。一貫して「行き場のなさ」を歌い続けてきた彼女にとってはど真ん中のタイトルだろう。でもそれは今の先の見えない時代の空気とリンクする形で放たれている。「先に進もうとする決意」と共に歌われている。《明日はどこに向かうのだろう》という言葉が《過ぎ去る背はもう見えない/ただ その先へ》と続き、そして曲の最後には《燃える世の底を這って/ただ 鳴き叫ぶ》と歌われる。こんな風にダイナミックなメッセージを放つ彼女の姿はとても新鮮に思える。6分を超える長さを持つこの曲。後半にかけては、アレンジも彼女の歌声自体も、どんどん感情の水位を上げていく。嵐のようになっていく。凄まじい曲だ。

本人曰く、「仕事に、人生に疲れた男たちの応援歌」というこの曲。J-POPの世界には応援歌を称する楽曲はたくさんあるけれど、彼女のバラードを聴いた後では、それが甘口に聴こえてしょうがなくなる。カップリングの“I Pass By 〜Darksmoke Version〜”のしゃがれたブルージーな味わいもたまらない。(柴那典)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする