久々の大器晩成型

ザ・テンパー・トラップ『コンディションズ』
2009年09月30日発売
ALBUM
ザ・テンパー・トラップ コンディションズ
ザ・テンパー・トラップ コンディションズ
新人バンドが踏むべき段階をいくつも省略しているバンドである。いきなり遠視と俯瞰を試みていて、「足元が見えてないけど大丈夫ですか?」と心配したくなるようなデビュー・アルバムである。あまりにも普通のあんちゃん然としているし、僕らインディ・ギター・バンドです!みたいな隙だらけのスタンスを表明しているし、ロジカルな戦略をインタビューで述べるでもない。オージー・バンドならではの大らかで牧歌的なキャラはシーンのサイクルの外で、「規格外の王道」を作るに適した性質とも言えるだろうし、それは無自覚の偶然の産物かもしれない。そして、彼らの音楽が持つ本来的なフォルムは、一聴した段階ではその全体像を掴めないかもしれない。

そう、このバンドは無自覚なのにこんなとんでもない音楽をやってしまうのである。自覚的だったらきっと足が竦んで作れなかっただろう、そんな底抜けと紙一重な驚異のポテンシャル。それがザ・テンパー・トラップだ。極めて構築的な、しかも空恐ろしいほどビッグ・デザインな音楽。再構築とかリ・デザインではなく、どデカイ荒野にゼロから国を作り上げていこうとするような音楽である。ジム・アビスのプロデュースがこんなに意味を持っている新人のアルバムも初めてだ。大人の知恵と経験が、彼らの音楽を翻訳するには不可欠なのだ。アークティック・モンキーズのファーストにおいてアビスがほとんど仕事をさせてもらえていなかったことを嫌でも思い出すわけだけど、彼らがアークティックスと対照的で両極な、そして等しく重要な2000年代の才能であることは間違いない。(粉川しの)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on