自己完結しない言葉

スピーチ・デベル『スピーチ・セラピー』
2009年12月05日発売
ALBUM
UKのヒップホップ・シーンは、グライムを含めユニークな進化をしてきたが、一方でUSに比べ女性MCの活躍が制限されてきたのも悲しい哉、事実である。女に必要以上の努力を強いる土壌は、必然的にミズ・ダイナマイトやエステル、レディ・ソヴァリンといった強く激しい女性MCを生み出し、フロエトリーのようなオーガニックなアーティストはUSに移動・吸収されるしかなかった。今年マーキュリー・プライズを受賞したスピーチ・デベルの凄さは、そういったジェンダーの壁をクリアし、ミズ・ダイナマイト的主張性とフロエトリー的音風景の両方を同時実現出来たことにあると思う。加えて、私的でUK文化に満ちた作品であるにも拘らず、内観&俯瞰の両視点と巧みなリリカル・スキルによって普遍的な感覚を表現し、UK内外問わず誰の耳にも響く世界を描いたことも素晴らしい。この大人しそうな、若干地味ですらある女子の作品が、UKにおける女性MCの最新型を提示し、「内輪で共有出来ればそれだけでもいいや」といったローカル感覚が根強いUKのヒップホップ・シーンそのものにも風穴を開けてしまったのだ。すげぇ、の一言に尽きる。(上田南)