体温まで伝わってくるような楽曲たち

忌野清志郎『Baby#1』
2010年03月05日発売
ALBUM
忌野清志郎 Baby#1
忌野清志郎は多面的な才能を持つ人だった。カリスマ的なバンドマンであり、日本語ロックの文法を変えた詩人であり、80年代サブカルチャーを駆け抜けたトリックスターでもあった。そんな数ある才能の中で、シンガーソングライターとしての側面をとことん追求したらどうなるのか。それが、録音時から21年を経てリリースされる本作だ。

収録曲は“I Like You”を筆頭に、これまでRCサクセションやソロの名曲として親しまれてきた楽曲が大半だ。ただ、こうして一枚のアルバムとして聴くと改めて気付くことがある。どれもパーソナルな視点で書かれた曲であることだ。ソウル~ブルースの要素を交えたアンサンブルも、あくまでも清志郎の歌声を軸に展開していく。本作にいるのは、いわば一人の歌うたいとしての清志郎である。

思えば、RCの音楽にはロックもブルースもパンクもテクノもすべて含まれていた。その絢爛さこそがRCの魅力でもあったが、本作を聴くと、89年の清志郎は数ある可能性の中から、一つの立場を選び取ろうとしていたように思える。言葉とメロディにすべてを賭け、個人的であることを通じて普遍へといたる、ブルースマンのような構えである。

たとえば、ご子息が生まれた喜びを綴ったという未発表曲“Baby#1”。清志郎がここで歌っている小さな命への驚きと愛情は、見事なフレーズによって普遍的なラブソングとなり、子どもを持つことなど想像したこともない高校生の心さえも激しく揺さぶるだろう。清志郎という人を思うとき、私たちは何度も本作と出会うことになるはずだ。 (神谷弘一)
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