アルバム・タイトルの『トータル・ライフ・フォーエヴァー』とは、アメリカの未来学者、レイモンド・カーツワイルの提唱するコンセプトを聞いて生まれたそうだ。その学者が言うには、人類の進化の次なる段階では、人工知能が地球上で最も有能な生命体になり、人間は機械と融合することで不死の生命を得るという。もちろん、バンドがこのタイトルをアルバムに冠したのは皮肉だろう。けれど、笑えないところもある。最近の人類はテクノロジーに負けっぱなしである。金融工学は人間のモラルを軽々と突破して不況を巻き起こし、人々は想像力よりもグーグルの検索結果のほうを信じ始めている。もはや仮想世界のほうが、うだつの上がらない現実よりもより多くの愉楽を提供している側面もある。しかし、フォールズの面々が本作の制作にあたって立ち返ったのは、そのうだつの上がらない現実のほうであり、自らの内面という暗く狭い入口のほうだったのだ。
前作とは較べものにならないほどスケールが広がっている。まるで別のバンドのようだ。前作までの脱臼したようなポスト・パンク・ギターは極端に減り、自分の想像力のためであればエレクトロのようなテクノロジーもむしろ積極的に起用している。そして、ここで歌われる内面が箱庭を飛び越えて、現実にまで届くようにと、サウンドのスケール感がそのままポップネスになっている。それが実にイギリスのバンドらしい。ザ・XXと並んで、この1年に聴いたUKバンドのアルバムで最も希望を感じた1枚だった。(古川琢也)
2010年、UKロックの希望
フォールズ『トータル・ライフ・フォーエヴァー』
2010年05月26日発売
2010年05月26日発売
ALBUM