カジュアルに、また世界制覇

マルーン5『ハンズ・オール・オーヴァー』
2010年09月15日発売
ALBUM
マルーン5 ハンズ・オール・オーヴァー
前作も非の打ち所のないクオリティの高さを誇る作品だったが、3年ぶりの最新作もまったくもって降参するしかない、完璧なアルバムである。何より凄いのは、マルーン5の本質がまったく揺らいでいないところ。つまり、スマートで洗練された優等生ポップを惜しげもなく披露しつつ、加えて、ロック・バンドとしてのエモーションが、軽快に息づいているのがいい。世界的大ヒットを記録し、背負わされるものも小さくないはずのバンドが、方向転換や新たなリスナーの開拓に試行錯誤することなく、普遍的チャームを備えた作品を創る――これがいかに難しいことか。しかしマルーン5はそれをあっさり達成してみせる。ハードロック・テイストをあくまでエッセンスとしてふりかけた“スタッター”及びタイトルトラックのスリリングさ。それは、自身のルーツを省みるという内省のプロセスを経て、すくすくと成長してきたマルーン5の音楽性に、自然な形で反映されている。ノスタルジアでもなく、アイディアの再発掘でもなく、思考プロセスのひとつとしての再訪ほど強いものはない。スタジアム・バンドの本領発揮といえる“ジャスト・ア・フィーリング”など、ライター(携帯の液晶?)をかざす客の姿が目に浮かぶ曲もあれば、ゲストのレディ・アンテベラムのボーカルがまるでひとつの楽器のように聴こえる“アウト・オブ・グッバイズ”など、スケールの拡大とチャレンジも同様に果たされている。「ちょっと環境を変えてみたくて」スイスでレコーディングを敢行したというアダムの余裕の佇まいを見て、真のポップ・ミュージックに賞味期限はないのだと思わされた。(羽鳥麻美)
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