これはひとつの答えだ

ステレオラブ『ケミカル・コーズ』
2008年08月20日発売
ステレオラブ ケミカル・コーズ - ケミカル・コーズケミカル・コーズ
rockin’on9月号の90年代特集でポスト・ロックと渋谷系についての原稿を書いたが、その両者の延長線が交わる地点にいるのがこのステレオラブだ。ジャーマン・プログレ/クラウトロックの影響下から出発した彼らは、ムーグとオルガンとギター・ノイズによる実験を繰り返した時期を経て、傑作『エンペラー・トマト・ケチャップ』でジョン・マッケンタイアを招きハードディスク・レコーディングへとシフトしていった。その後はジム・オルークやハイ・ラマズのショーン・オヘイガンを呼び寄せ、90年代の終わりとともにアナログ・サウンドへと回帰していくのだが、その歩みはポスト・ロックがどこから来てどこへ向かうのかを体現しているようで面白い。ステレオラブが追求してきたのは、ポスト・ロックの地平でいったいどんな「ポップ」が可能なのかということなのだ。

その意味で本作は彼らの軌跡の決着点なのかもしれない。4年ぶり10枚目のアルバムが本作。ここに至り、ポスト・ロック/エレクトロニカ的なる要素は完全に消えた。というか、それが主要なものではなくなったというべきか。ただ無邪気でパーマネントなポップ・ソングが16曲、並んでいる。今作はティムが作ったドラム・ループから曲を作っていったそうだが、その作り方が「彼らにとって」新しいかどうかは別として、リズムの上にコードを載せメロディを載せ……というプロセス自体はジャム・セッションそのものである。これを単なる先祖回帰とみるか進化の末の結果とみるかで評価は分かれるだろうが、ただひとつ、彼らのポップ・センスがずば抜けていることだけは否定しようがない。(小川智宏)
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