“ミスターパーフェクト”で歌われる《僕》、つまり《もうすぐなれるはず／思い描いてた理想の僕に》と自分の殻を脱ぎ捨てようとしながら、同時に《僕はこんなものになりたかったのか》と苦悩する《僕》の葛藤こそが、清水依与吏という人の表現の根底にはあり続けてきた。バンドを組んで、メジャーデビューを果たして、多くの人に受け入れられてもなお、というか、そうやってback numberの歌がみんなのものになっていけばいくほど、清水のなかの葛藤は根深くなった。いうまでもなく、その葛藤はいまだ終わっていない。だが、ここに刻まれた「迷い」や「矛盾」は、これまで歌われてきたものとは質が違う。“スーパースターになったら”は仮定としてのスーパースター、「スターになりたいけどなれない僕」が、葛藤を抱えたまま《二度と何ひとつ諦めない》と歌う歌だ。「ありのままの自分でいい」という安易なJ-POP的自己肯定に逃げるでもなく、完璧な虚像を演じるでもなく、清水は誠実に自分自身の今と向き合って、このアルバムを作った。そこに刻まれた変化は、だからこそポジティヴな輝きを持つのだ。（小川智宏）