初めて見る素顔

エイミー・ワインハウス『ライオネス:ヒドゥン・トレジャーズ』
2011年12月14日発売
ALBUM
エイミー・ワインハウス ライオネス:ヒドゥン・トレジャーズ
7月に亡くなってから、もう4ヶ月が経ったと言えるし、まだ4ヶ月しか経っていないとも言える。そのタイミングで、こうした作品がリリースされる。全12曲、エイミー・ワインハウスが生前に遺した音源を集めたアルバムになる。
エイミー・ワインハウスが同じ曲でも二度同じように歌うことはなかったというのは有名な話だ。彼女にとって歌うこととは、一期一会のようなものであり、徒然であり、刹那であり、ともすれば一回一回が一つの決闘のようなものであったのではないかと想像する。このアルバムを聴いていると、更にその思いは強くなる。デモのヴァージョンの楽曲もあり、いわゆる完成型だけが収録されたアルバムではない。だからこそ、彼女と歌との関係が、これまでのオリジナル・アルバム以上に見えてくる。その個性的なファッション・センスも含めてだが、彼女はクラシックな楽曲のなかを「生きる」ことのできる人だった。むしろ音楽から離れた現世のほうが、ずっと居心地の悪いように見えた。曲のキャラクターにチューニングを合わせて、曲に宿る感情を冷静に見つめ、大袈裟にするでもなく、下手に洗練させるでもなく、彼女としか言いようのない声でただ歌った。その阿吽の呼吸が本作には収録されている。
ハイライトは、NASと共演した“ライク・スモーク”と、ルーツのクエストラヴが手掛けた“ハーフ・タイム”。所属レーベルによればまだ10曲以上、レコーディングされて遺っている曲があるという。リリースはないのだろうか。(古川琢也)


今も、昔も、これからも、ここに

エイミー・ワインハウスという名の喪失を改めて刻印するリリースが、この『ライオネス』である。副題に『ヒドゥン・トレジャーズ(隠された宝)』と記されたように、本作はエイミーの死によって未完成に終わった最新作ではなくて、彼女のオールキャリアに亙る未発表曲をコンパイルした歴史的一枚である。最古の収録曲は2002年5月のレコーディング、そして最新のナンバーは2011年2月のものになるから、本作収録の全12曲はエイミーの10年近い歳月の記録ということになる。
トラックリストが年代無関係のランダムな並びになっていることもあって、本作を聴くとエイミーの声と歌とは歳月の流れに影響されない予めの天賦の才であったことに改めて気づかされる。19歳のエイミーは古典の“イパネマの娘”に眩しい若葉のような輝きを与え、一方ザ・ルーツのクエストラヴと共作した“ハーフタイム”では19歳の歌声とは思えない技巧と熟練を感じさせる。彼女はいつの時代も、その歌に最も相応しい声を直感で選び取っていく。A・ワインハウスとはM・ロンソンやS・レミの手によってモダナイズされた21世紀のマテリアルではなく、あくまでもひとりのシンガーに奇跡的に宿った普遍の物語であったことを証明する一枚なのだ。唯一感触が異なるのがラストの“ア・ソング・フォー・ユー”。心身共に最悪な状況下にあった2009年春に、彼女がたったひとりでレコーディングしたこの曲には、悪魔と取引きする寸前まで追い詰められた当時の彼女の苦しみ、生々しい痛みが息づいている。(粉川しの)

M=マーク
S=サラーム
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