最小限の音、最大限の感動

ザ・XX『コエグジスト』
2012年09月05日発売
ALBUM
ザ・XX コエグジスト
これまでもミニマリズムを追究してきたバンドであることは言うまでもないが、新作『コエグジスト』における“最小限”のレベルは尋常でない。本作のあとに前作を聴くと、その情報の多さに圧倒されてしまうぐらいだ。それはジェイミーが繰り出すビートがより鋭角的に洗練されたため、余計なサウンドが排除できたというのもあるかもしれない。しかし音の少なさも壮絶だが、それ以上にこのアルバムの言葉の少なさ、そしてその言葉のシンプルさには本当に唖然とさせられる。たとえば個人的にはもっとも気に入っていて、特に7月の来日公演では新曲というのに、ひとつのハイライトとなった“サンセット”。シンプルな4つ打ちビートに重ね、ロミーとオリヴァーが交互に歌うという、憂いを帯びた失恋ソングなのだが、そこで歌われているのは“I always thought it was sad, that we have to act like strangers”という、あまりにもストレートな歌詞。他の曲も大体そうで、このアルバムのテーマが“叶わぬ愛”についてだっていうことは、中学生レベルの英語でも充分に伝わってくるはずだ。スノビズムが横行する現代のインディ・シーンで、ここまで飾り気のない言葉選びをするバンドは本当に珍しい。しかし、それがまったく稚拙に響いてこないのは、紛れもなく彼らの成熟の表れだろう。

ひとつの音、ひとつのビート、ひとつの言葉が人から喚起する最大限のエモーションを知った彼らは、怖じ気づくことなく、そこにすべてを賭けることにした。何もが過剰な現代、それは極めてリスクが高い博打だ。彼らの圧倒的な“勝利”はそれだけに感動的である。(内田亮)
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