前作『ウィズ・ロング・プレイヤー・レイト・ブルーマー』でプロデューサーにボブ・ロックを起用したのが大正解となってどこか突き抜けた境地に達した感のあったロン・セクスミス。前作はつくづく画期的な名作だったと思うが、今作ではロンのメジャー・デビュー作や06年の『タイム・ビーイング』を手がけたミッチェル・フルームにプロデュースを託していて、さしずめ原点確認的なアプローチかと思いがちだが、さすがに前作のようなハイパーな境地をいったん経験するとその強烈なドライヴがしっかり血と肉となっていて、しっとりした作りながらも力強さも立ち上がる頼もしい内容となっている。とはいえ、作風はロンの真骨頂そのままで、巧みなソングライティングと絶妙なアレンジが惜し気もなくめくるめくように展開するというもの。ただ、それをひとまとめにするロンのヴォーカルに憂いと陰のほかに骨の太さが伴うようになったのが本当に魅力的だ。特に冒頭の〝ノーウェア・トゥ・ゴー〟はあまりに絶望的な内容をロン自身の歌いかけが救っていくというすごい展開。珠玉の名曲となった〝スネイク・ロード〟とかぜひヒットしてほしい。(高見展)