さりげないから有難いんだ

ロン・セクスミス『エルミタージュ』
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ALBUM
ロン・セクスミス エルミタージュ

メジャー・デビュー作『ロン・セクスミス』から25周年、そこから本人名義のスタジオ・アルバムとして13枚目にあたる本作。彼が敬愛する伝説的先達と比べると、ポール・マッカートニーが70年のソロ・デビュー作から25年で16枚、エルヴィス・コステロが77年から25年で19枚と、時代背景の違いを考慮しても充分に比べ得るだけの量・質のディスコグラフィをロン・セクスミスも積んできていると言っていいだろう。なお、先述の2人を含む多作家達の大半が音楽的挑戦を厭わず、ときに新たな実験へと振り切った作品を残す傾向にあるのに対し、彼は一貫した高次安定型。大きな冒険はせず、ただただひたすらに「良い曲」だけを練り上げ、アレンジの精度によって多少の良し悪しはあるものの、十二分に品質が保証された逸品だけを上梓し続けている。珍しくツアー・メンバーと共にレコーディングに臨んだことにより瑞々しいバンド・グルーヴがアルバム全編を包んだ前作『ザ・ラスト・ライダー』から一転、本作では盟友ドン・カーのプロデュースのもと、ドラム以外の全ての楽器をロンが演奏。そのため、全体的に彼の体温が感じられるようなほっこりとした音像となっており、ソングライティングもまた、相変わらずの良曲美曲が揃えられてはいるが、ワン・アイデアで潔く終わる2〜3分台のシンプルな楽曲が並ぶ。つまり、ロン・セクスミスにとってメジャー・デビューから25周年という区切りに、肩に力を込めるに足るだけの意味などないのだ。これまで続いてきた、そしてこれからも続いていく彼の音楽人生の中のただの一場面に過ぎないのである。ある意味、仰々しい記念碑的アルバムよりよほど彼のこれまでのキャリアへの感謝とこれからの歩みへの期待が膨らむ一作だ。 (長瀬昇)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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ロン・セクスミス エルミタージュ - 『rockin'on』2020年5月号『rockin'on』2020年5月号
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