天才が飛躍する。祈り、そして翔べ

米津玄師『サンタマリア』
2013年05月29日発売
SINGLE
米津玄師 サンタマリア
この曲を聴き、米津玄師という弱冠22歳の天才が鮮やかなスピードで進化する瞬間に立ち会えたことを、のちのち誰かに自慢しよう。これはそういう、歴史的な意義を持つ曲である。人と人は、完璧に理解し合うことは絶対にできない。去年のアルバム『diorama』は、そういう彼自身の経験的な真理を基に、世の中で起こる日々の狂騒を俯瞰してフィルタリングして並べた傑作ロック・アルバムだった。それは超人気ボカロP=ハチとしてのキャリアを持つ彼が、そのコミュニティの他者として振る舞う人間たちに巨大な才能を知らしめた黒船で、その成功は同時に彼自身をも大きく変えた。うっすらとしたノイズで始まり、力強いメロディと加工を排した彼自身の声で歌われるのは「僕とあなた」を繋ぐ奇跡。これは転向ではなく、徹底的なディスコミュニケーションの果てに、だから論理を超える飛躍こそが本当に尊いものだという、言わばコペルニクス的転回である。その覚悟が生半可なものでないことが、選びぬかれた言葉の一語一語、ポップなメロディの一音一音の強靭さからひしひしと伝わってくる。傑作。(松村耕太朗)
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