円環から踏み出す一歩

plenty『this』
2013年05月29日発売
ALBUM
plenty this
plentyというバンド、というか江沼郁弥という表現者は、明確に「孤独」から始まっていた。どうして僕は人と違うのだろう、どうして僕は愛するということがうまくできないのだろう、どうして僕のなかのこのからっぽの部分はいつまでも埋まらないままなのだろう――plentyのこれまでのディスコグラフィは、孤独から出発し、自分とは、人間とは、世界とは何かという途方もない問いの周辺をぐるぐると回りながら、手がかりを掴んでは言葉に刻んできた旅路そのものだ。しかし、1stアルバム『plenty』以降、江沼の表現は明らかに変わった。すごく簡単に言ってしまうと、目の前の孤独に、正面から向き合うようになってきたのだ。思い切り乱暴な言い方をすると、ぐるぐる回っていた問いを「そういうもんだ」と言えるようになってきたのだ。そしてこの2ndアルバムである。今作には「明日」という言葉が何度も出てくる。《どこか遠くでゆっくりと明日が始まってゆく》(“プレイヤー”)という実感は、想像以上にタフで確信的なものだ。その重大な覚悟は、驚くほどに重厚になったサウンドにも如実に表れている。(小川智宏)
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