アーティスト

    健全な構造がもたらしたUK1位

    ディスクロージャー『セトル』
    2013年07月10日発売
    ALBUM
    ディスクロージャー セトル
    ユース・カルチャーにとって重要な表現手段であったはずのギター・ロックは、高額な楽器機材を揃えなければならず、ある程度の演奏技術も求められるためにスタジオ練習を要するなど、音楽ビジネスの構造の中で一層、若者にとって敷居の高いものとなってしまった。多彩な空間系ギター・ワークで知られるU2のジ・エッジは、キャリア初期のレコーディングにおいて、使用ギターの交換を薦めるプロデューサー、スティーヴ・リリーホワイトに「これ(エクスプローラー)が俺たちの持っている唯一本のギターだよ」と切り返したという。映画『ゲット・ラウド~』の中でも語られていたエピソードだ。ラップトップ1台とヘッドフォンで音楽が作れる時代ならば、自己表現を志す若者がそちらを向くのは至極当然のことだし、EDMがバブリーで退屈なものになってしまう理由の多くは、安直なビジネスに走り、お仕着せのトレンドを煽り立てる大人の世界の問題にしか過ぎない。

    英サリー出身のディスクロージャーこと若きローレンス兄弟が、プロのミュージシャンである両親のもとに育つという恵まれた環境にも関わらず、まずはエレクトロニック・ミュージックで世に飛び出したこともごく自然な流れだと思える。上辺においては特に真新しさのないステッパーズ系のスタイルを用いながら、この活き活きと躍動するダンス・チューンの、全編にわたってとどまることなく溢れ出す歌心の、なんと素晴らしいことか。これこそが健全なポップ・ミュージック/ユース・カルチャーの形にほかならない。9月に予定されている来日公演も必見である。 (小池宏和)
    公式SNSアカウントをフォローする

    人気記事

    最新ブログ

    フォローする
    音楽WEBメディア rockin’on.com
    邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
    洋楽誌 rockin’on