9mm Parabellum Bullet・滝善充が完全解説! 最新作『BABEL』の全曲を解き明かす(2)
びっくりするようなものを作らないと、9mmっぽくない
──“眠り姫”も、歌メロが際立った曲ですよね。
「正直に言ってしまうと、これは吉井(和哉)さんが歌っても大丈夫なくらいの、真っ当なロックの曲にしようと思っていたので、色々入れずに完成させたいなっていうのと――卓郎が歌詞から先に書いた初めての曲なので。歌詞が前に出るような感じで行きたいし、歌より前に音を入れることはしないように、っていうことを考えて作りましたね。この曲はMVが先に出てるんですけど、これを先に聴くと『シンプルなアルバムなんじゃないか?』と思われるような気もして。まあ、後から面喰らうことになると思うんですけど(笑)。でも、この曲がなかったら、もっとゴリゴリの、閉じた印象のアルバムになっちゃったかなあという気もするので。あってよかったなあって。守り神みたいな感じですね(笑)」
──「“火の鳥”は5拍子の曲で。同じ5拍子の“Sleepwalk”にも通じる、エッジの立った曲ですね。
「『ゴリゴリのアルバムにしたい』って俺が言ってるんだから、明らかに変拍子の曲が1曲ぐらいあってもいいよな?って自問自答しながら、『5拍子でリズム取りづらいのにタッピングまでやったら、そりゃ激しいって思うよなあ』って――もう呆れてしまうほど激しい状態にしようかなあって。サビはまとめたかったので、サビに入る直前で3拍子になってるんですけど、その拍のチェンジが最初うまくいかなくて、何回も組み替えながらやって……演奏するのも難しいけど、作るのも難しかったなあって(笑)」
──最高難易度に常に挑み続けますからね、滝くんも9mmも。
「挑まないとダメだなあと思って。びっくりするようなものを出さないと――今回わかったのは、マジでこれくらいびっくりするようなものを作らないと、9mmっぽくないなあって。みんなを驚かせることができないと、今までと同じようなことをやってたら、それは腐っていくだけだなあって。新しいことに挑戦するのが、今までやってきた9mmに近い行動なのかなあ……と、完成した後に思ったのはこの曲でしたね(笑)」
──だから面白いですよね。単に「人をびっくりさせたい」っていうことではなくて、最終的には誰でもわかるポップなところに落とし込みたいっていう視点を持ちつつ、でも「びっくりさせたい」「聴く人の想像を超えていきたい」っていうハードルはどんどん上げ続けているっていう。
「そうですね、上げていくっていう。でも、毎回その感じでやってて、自分でも口ずさみたくなるような曲ができるし。そうしていくんだろうなあ、それが一番いいんだろうなあって思いながらやってます」
──7曲目の“Everyone is fighting on this stage of lonely”も、1曲の中で曲調がガラガラっと変わりますよね。
「わりとストレートな曲にしようと思ってたんですけど……これも“ガラスの街〜”との兼ね合いで、『ちょっと中身を複雑めにするならこっちの曲だろうな』って。この“Everyone〜”で中身をシンプルにしちゃうと、アルバム全体がシンプルな印象になってしまうんじゃないかな?ということで、この曲には内容を頑張ってもらって、サビも3回やって、よくわかんないギターソロも長いCメロもつけて──」
──ギターソロは“ホテル・カリフォルニア”みたいなツインリードですからね。
「あれはほんと“ホテル・カリフォルニア”というか、サンタナが2〜3人出てきた、みたいな印象で(笑)。『もっと丸い音に!』みたいなことを1時間くらいやってましたね(笑)」
──で、最後はダーンと風景が広がって、ゴスペルみたいになっていくっていう。
「そこのゴスペルみたいな流れも、サンタナというか、アース(・ウインド&ファイアー)ですよね(笑)。私が憧れるものは80's感ですからね(笑)。というか、憧れの対象物を入れたいってなると、結局80'sの華やかなイメージになってしまうことがあるというか、それを思い起こしてしまうっていうのは……作風ですよね(笑)」
ギターを弾けなくなってる、って思ってる人もいると思うんですけど……いっぱい弾いてますんで
──そして、アルバムタイトルにもつながってくる“バベルのこどもたち”。
「この曲で、このアルバムのキャラクターを大きくつけてしまおうと――極悪な、暗く沈んだ内容に、って思って、わりとミドルテンポで、歌詞が多く入るようにリズムを組んで入れて。手数が多いから極悪とか、音が凶悪だから極悪っていうわけでもなくて、単純に曲が暗く沈んだものであるっていう。ずっしりとした、パーッとした感じではないんですけど、作曲者としては本当によくできたなって、自信のある曲ですね。この曲は『ずっしり』です(笑)」
──これは「びっくりさせたい」的なものではなくて、世界観から出てくる曲ですよね。
「そうですね。Aメロは静かで音スカスカなんですけど、ヴォーカルのリズムとか、コーラスの入り方とかに――また80'sなんですけど、80年代ネオン街みたいな、アースみたいなノリがあるというか(笑)。ちなみに、“ガラスの街のアリス”のAメロも同じイメージで作ってて。ちょっと80'sな、ディスコビートの――だからさっきマイケルって言ったんですけど。そういう共通した世界観があって、そこからどっちに踏み出すか?っていうことをかなり考えてたんで。そこからヘヴィにできてよかったですね」
──ラス前は“ホワイトアウト”ですね。
「これも80'sネオン街な印象というか、女性的な印象の曲になるだろうなと思って。Cメロ後、最後のサビの頭のほうは静かなんですけど、そこでまたネオン街みたいなイメージを入れて、前の曲とのつながりとか、そのさらに前にどんどん帰っていって……アルバムとしてのイメージが縦も横もつながって絡んでいくような感じにしたいなと思って。弾いてる内容は全然違うんですけど、同じモチーフ、同じ感情から生まれたフレーズを、とにかくいろんなところに計算して入れてます(笑)」
──そんなアルバムが、“Everyone〜”でも“バベルのこどもたち”でもなく、“それから”っていうカオスな曲で終わるっていう(笑)。
「そうなんですよねえ(笑)。“バベル〜”で十分重く暗くできたのに、その次に“それから”に取り掛かって――『最後に持ってきちゃおうかな?』って思うくらいの感じで作り始めたんですけど、暗すぎるな、ゴリゴリすぎるなと思って(笑)。サビをちょっとポックリしたメロディというか、わかりやすいメロディに作り替えたりして。逆に、後半の語りの部分の内容は信じらんないくらい極悪なんですけど、あれをやったことで俺、『この曲は軽くなったな』って思いましたね(笑)」
──そういう、黒に黒を塗り重ねて眩しくなる、みたいなマジックも含めて、「ソングライター」だけじゃなくて「プロデューサー」としての滝くんのハイパーさも活きているアルバムですよね。
「プロデューサーは私、楽しいし、向いてるなあって思いながら日頃生きてるんですけど。結局、聴いた人に何を感じてもらいたいか?っていうことを考えたら、大して悩まずに曲ができるし、表現したいものが決まるので。『俺がこうしたい』は特に考えず、『俺が何でもやりゃあいいじゃん』っていう(笑)。『足んねえなあ』と思ったら継ぎ足せばいいし、『多すぎたなあ』と思ったら――それでもまた足せばいいくらいの感じで。足し算式なんで、私は(笑)」
──LOW IQ 01 & MAD BEAT MAKERSのステージにリハビリとして出ることも発表されましたけど(5月6日に開催されたイベント「SOUND SHOOTER VOL.12 SAPPORO」に出演)、9mmのステージで1時間半とか2時間とかフルに爆発するのとは全然違うだろうし。9mmのライブにおける人間発電機としての滝くんは、改めて重要な存在だなと思うので。
「発電機たり得ないとダメですからね、ステージに立つ上では。まあタイミングと、本人にどれだけ自信が戻るかですね。自信が戻っても、どれだけゆっくり長期的に考えられるか──また故障したら元も子もないので。っていうか、本当に故障する寸前のところで止められているので」
──まあ、そこはくれぐれも無理をせず、じっくり様子を見ていただければと。
「そうですね。でも人によっては、完全に腕がダメになってギターを弾けなくなってる、って思ってる人もいると思うんですけど……いっぱい弾いてますんで、よろしくお願いしまーす!っていうのを、最後に載せていただければと。聴いたら伝わると思います、再生1秒以内で(笑)」