フジロック予習用特別企画

FOO FIGHTERS

メルボルンで観た21世紀最大級の
スタジアム・ロックを徹底分析!

Text by RYO UCHIDA
Photographs by ANDY JOHNSON

実に7年ぶりとなる来日をこの夏、フジロックのヘッドライナーとして実現するフー・ファイターズ。昨年は、1年以上を費やして、全米8都市で1曲ずつをレコーディングした大作『ソニック・ハイウェイズ』をリリースしただけではなく、各都市の音楽史に1時間ずつ捧げたドキュメンタリー・シリーズも公開した、世界一ハードワーキングなロック・アーティストのデイヴ・グロールが率いるバンドは現在、世界各地の巨大会場でその硬派なロックをプレイしている。もともとはニルヴァーナのドラマーだったデイヴのワンマン・プロジェクトは、いまやロック界の頂点に君臨するモンスター・ロック・バンドへと成長したのだ。そんなフー・ファイターズが提示する21世紀におけるスタジアム・ロックの魅力を今回、オーストラリアのメルボルンで実際に観た、5万5000人を震撼させた凄まじいライヴ・ショウをふまえて紐解いてみる。

フーファイのライヴでスタジアム・ロックを感じさせたポイントは?

そもそもスタジアム・ロックとは70年代に産業として膨張したロックだが、増えつつあるファンに対応するために劇場やナイトクラブではなく、普段はスポーツなどが行われる大会場でライヴが行われるようになった頃に定着した言葉。代表的なバンドとしてはレッド・ツェッペリンやローリング・ストーンズ、クイーン、ピンク・フロイドなどが挙げられるが、面白いのはあまりにも巨大化したために浮世離れが激しかったロックを庶民の手に戻すために勃発したのがフーファイのメンバーのほとんどがルーツを持つ70年後半の音楽シーンをリードしたパンク・ムーヴメントだったりすること。なお、ニルヴァーナを中心に90年代に巻き起こったグランジ/オルタナ・ムーヴメントもまたパンクの精神を受け継いだ、アンチ・メジャーなスタンスが顕著だった。そういう意味で、70年代のLAパンクの中心的バンドだったザ・ジャームスのギターだったパット・スメア、90年代のエモコア・レジェンド、サニー・デイ・リアル・エステイトのベースのネイト・メンデル、老舗インディーズのFAT WRECK CHORDの看板バンドだったノー・ユース・フォー・ア・ネームでギターを弾いていたクリス・シフレット、さらにデイヴ・グロールもニルヴァーナの前はDCハードコアのスクリームでキャリアをスタートさせたわけで、そんな由緒正しいパンクなメンバーがそろったフー・ファイターズがスタジアム・ロックを堂々とかましているのは不思議に思えるが、最後の来日公演となる08年の幕張メッセ公演以来、久しぶりに生で観たフー・ファイターズのライヴはまさしくスタジアム・ロックであった。

では、どういうところがスタジアム・ロックかと言うと、まず単純に会場がスタジアムであり、そこにいる5万5000人のオージーがほぼ全曲を合唱しているという、まさにメジャー感溢れる環境が大きい。しかもヒット曲はもちろんのこと、冒頭に放たれた最新作『ソニック・ハイウェイズ』の“サムシング・フロム・ナッシング”から、ほぼ全員と思えるほどの人数がコーラスのみならず全編を歌うので、それが生む高揚感は半端がないのだ。英語圏ならではの現象なのかもしれないが、これぞ大衆音楽と思わざるはえない。さらにサポートのラミ・ジャフィー(key)を含めて、現在のメンバーに固定してから早くも9年が経つ。それだけにバンドの演奏も脂が乗り切っていて、パワフルでタイトな演奏はもちろんのこと、たとえば泥臭いハードロック・ジャムへと展開していった“マイ・ヒーロー”や、ピンク・フロイド的なサイケ・ジャムへと展開していった“モンキー・レンチ”など、変幻自在な演奏も息がピッタシ。ただ曲をそのまま演奏するのではなく、メンバーのプレイアビリティを披露する瞬間も多く、それこそ70年代のツェッペリンやザ・フーを彷彿とさせるのである。終盤で演奏した“ベスト・オブ・ユー”でデイヴ・グロールは、近代ロックではわりとご法度とされている長いギター・ソロをセンター・ステージでスポットライトを浴びながらも披露。それに歓喜する大観衆を含めて、これもまた非常に古き良きスタジアム・ロック的な演出であった。

フーファイが提示する21世紀におけるスタジアム・ロックとは?

実にオーソドックスなスタジアム・ロック的な作法を取り入れていたフー・ファイターズのライヴだが、あくまでそれを演奏面にとどめているところが、逆にパンク出身者ならでは、という感じだった。大会場ではデフォルトの大スクリーンは設置されていたが、それ以外は火炎もなければ紙吹雪すらなく、ステージ演出は極めてストイック。ステージも、アリーナ中央に設置されたもうひとつのステージまで、メイン・ステージから伸びる長い花道があり、実はその花道の途中に可動式の小ステージがあるというちょっとした仕掛けがあったとはいえ、段差もなければわりとシンプルな作りだった。しかもこの可動式の小ステージでこそ、フーファイがスタジアム・ロックを鳴らす理由が見えたのも面白い。セット中盤、中央ステージでデイヴひとりのアコギ弾き語りが披露されたのだが(“スキン・アンド・ボーン”、“ホイールス”)、そのあと“タイム・ライク・ジーズ”のイントロを弾きながら、同時に上昇してきた小ステージで肩を並べたメンバーと合流し、そこから始まったのはカヴァー大会。キッスの“デトロイト・ロック・シティ”、フェイシズの“ステイ・ウィズ・ミー”、AC/DCの“レット・ゼア・ビー・ロック”、クイーン&デヴィッド・ボウイの“アンダー・プレッシャー”をやったのだが、これがメドレー形式ではなく、デイヴとテイラーが曲ごとにメイン・ヴォーカルをとりながら、すべてをフルで演奏したのだ!しかも小ステージはラミを含めるメンバー6人がギュウギュウに肩を並べて演奏するぐらいのサイズしかないので、まさに狭いパブでロックを楽しんでいるローカル・バンドという印象を植え付ける(ただ演奏はめちゃくちゃタイトで、クリスがえぐいギター・ソロをかました“デトロイト・ロック・シティ”に至ってはこの数日後に来日公演で観た本家より良かったのでは?という出来……)。さらに可動式ステージは曲によって角度を変えるので、左右の観客は曲によって極上の体験をするのだが、大好きなヒーローたちの代表曲を満面の笑顔でプレイするフー・ファイターズは神々しいロック・スターというより、それに対する憧れを隠せないただのロック・キッズ。実際にはスタジアムでロックしているバンドだが、会場と比例してエゴと自惚れが膨れ上がらないのは、そのスピリットを見失っていないからだろう。好きだからやっているだけ。そんなパンクなメンタリティが決して欠落することないから、世界最大級のロック・バンドになっても、当初からあった親近感が薄れることがないのだと思う。そして、それゆえにフーファイはこれまでになかった、パンクを通過した21世紀ならではのスタジアム・ロックを体現しているのである。

フジロックのヘッドライン公演で何を期待する? 準備するには?

8年ぶりの来日公演となるフジロックのステージでもフー・ファイターズは迫力のスタジアム・ロックを披露してくれるだろう。そんな彼らのパンクのルーツと同時に、ロックに対する憧れを知るのに、まず最新作『ソニック・ハイウェイズ』をチェックすることは必須。しかもアルバムだけではなく、同時に制作されたドキュメンタリー・シリーズも。アルバムをレコーディングした全米8都市で、各地の音楽レジェンドのデイヴによるインタヴューが、制作過程と織り交ざってプレゼンテーションされた映像作品は、ジャンル問わず、メジャー/インディ問わず、ただひたすらデイヴとフーファイの音楽愛に溢れていて、彼らがロックする原動力が手に取るようにわかる内容である。フーファイのロック魂を理解するのに、これほどお手ごろの作品もないし、アメリカン・ミュージックを勉強するための参考資料としても非常に優れている。

ただ下記のメルボルンのセットリストを見ればわかるように、バンドの20年間を網羅した選曲になっているのは明らかだ。なので、とにかく最低限では『グレイテスト・ヒッツ』をチェックし、代表曲をしっかりインプットして苗場に挑むこと。特に“マイ・ヒーロー”や“ラーン・トゥ・フライ”は比較的に一緒に歌いやすい曲で、しかも絶対に演奏すると思われるので、そこら辺から攻めるのがお勧め。あと“ブレイクアウト”ではコール&レスポンスがあったので、こちらも予習の対象にしては? 言うまでもなく“エヴァーロング”は絶対にやるし、100%盛り上がることは間違いない。オアシスやレッド・ホット・チリ・ペッパーズなどで経験している人も少なくはないと思うが、苗場で響き渡る大合唱はまた別格の感動があるので、そこに加担できるように心がけて欲しい。

フェス出演は時間が限られているのでカヴァー大会を披露するかは定かではないが、メルボルンでやった4曲以外にも、他のライヴではラッシュの“トム・ソーヤー”やクイーンの“タイ・ユア・マザー・ダウン”やローリング・ストーンズの“ミス・ユー”などもやっているので、そこら辺のクラシック・ロックも事前にチェックするとより楽しめるかも。ちなみにメルボルンのライヴより、さらに多い8万人を動員したフーファイ史上最大のライヴを捉えたDVD、『ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム』もマスト・アイテム。最後、ジミー・ペイジとジョン・ポール・ジョーンズが登場し、ツェッペリン大会になるのも見物だが、とにかく何度も巻き起こる大合唱はホントに鳥肌もの。バンドの実力も大切だが、苗場の空気を作り上げるのにはオーディエンスの参加も不可欠なので、海外に負けないフーファイならではのスタジアム・ロックをフジのステージで、是非みんなで実現して欲しい。

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提供:ソニー・ミュージックレーベルズ

企画・制作:RO69編集部

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