①『世界分の一節』
1st Mini Album『世界分の一節』
01. 夕映 MUSIC VIDEO
02. 202
03. Growing yellowish
04. あと一駅で
05. それは彼女の部屋で二人
06. 雨時々僕たちまち君
恐るべき輝度と精度、その原点
1曲目"夕映"のイントロが鳴った瞬間、いきなり聴心の奥底を貫くように、感情の軋みそのもののコード感で響くギターのストローク。伊丸岡亮太&岡崎広平のソリッドなWギター/宇佐美友啓のしなやかなベースライン/高橋誠のツインペダルのドラミングが織り成す、鋭利な訴求力に満ちたバンド・アンサンブル。そして、「共感」とか「好感」ではなく「共振」レベルで抗い難く鼓膜と身体を震わせる、透明感と憂いに満ちた千野隆尋のヴォーカリゼーション……GOOD ON THE REELが2011年にリリースした1stミニアルバムの今作の時点で、すでにその清冽な音世界が透徹した純度を備えていることに改めて驚かされる。明けることのない孤独と葛藤を糾弾も拒絶もせず、そのサウンドと歌声で抱き止めてみせる一方で、《失くした僕らの塞いだ心を 開くカギも力も 全てその手で握ってるんだ》("夕映")と聴く者の掌に光を宿らせていく意志。《愛とはね、君と僕の事を言うんだよ。》("雨時々僕たちまち君")といったシンプルな言葉でてらいなく核心を射抜く精度にも戦慄必至。(高橋智樹)
夕映
②『シュレーディンガーの二人』
2nd Mini Album『シュレーディンガーの二人』
01. 2月のセプテンバー
02. いらない
03. 四つの手のひら
04. 写窓
05. ゴースト
06. コトノトコ
僕とあなたで作る世界へ
前作からわずか半年あまりでリリースされた2ndミニアルバム。《君はどこだ?》("2月のセプテンバー")と愛する誰かを見失った場所から始まり、《だから一緒にいるコトにした。》("コトノトコ")という決意で終わる全6曲。さまざまな距離、角度、思いで描かれる「二人」の姿が、近づいたり離れたりしながら描かれていく。ごく狭い半径の風景を描写しながら、一気に生き死にや長い時間のことへリーチしてしまう千野隆尋の歌詞の想像力が全開で、バンドサウンドもその言葉の力に引っ張られてスケールアップを果たしている。タイトルの「シュレーディンガー」というのはオーストリアの物理学者の名前で、このアルバムタイトルは「シュレーディンガーの猫」と呼ばれる彼の思考実験から着想したもの。世界にはあらゆる可能性が重なり合っていて、その結果は蓋を開けてみるまで分からない。6曲の主人公はそれぞれに自分の意思で目の前の「あなた」に向き合い、箱の蓋を開け、自分たちの世界を作っていく。《世界は二人だけのモノ》("四つの手のひら")という思想は、今も変わらないGOOD ON THE REELの信念だ。(小川智宏)
2月のセプテンバー
③『無言の三原色』
3rd Mini Album『無言の三原色』
01. コワシテ
02. ぼっち部屋のティティ
03. 停止線の遥か手前で
04. 迷子ごっこ
05. 白日
06. シャワー
色彩豊かに浮かび上がる抵抗と煩悶
前作から8ヶ月のスパンでリリースされた3rdミニアルバム。空気を裂くような切れ味のアグレッシヴなサウンドとともに、パンク・ロックとはまったく異なる形で《誰かが押し付ける答えに安心してる/抱えた両膝は 立ち上がれるはずなのに》と現実と己に抗うプロテスト・ソング"ぼっち部屋のティティ"。ファンクとエモを行き来しながら渾身の熱量と高揚感を巻き起こしていく"迷子ごっこ"。ロック・ワルツ的バラード越しに「届かない想い」に悶える"コワシテ""停止線の遥か手前で"。そして、《こんなに重くちゃ進めないよ/まだ見ぬ明日は未来なんだ》と4つ打ちビート&眩いギター・アンサンブルで聴く者を重力から解き放つ"シャワー"……自らの情感を丁寧に遠心分離してみせる歌詞世界が、それぞれの楽曲と一体になってよりくっきりと立ち昇り、触れる者を覚醒へと導く凛とした強さを描き出している。澄んだメロの端々から"迷子ごっこ"でワイルドな表情を覗かせ"白日"で人懐っこさを滲ませ……と格段に表現力を増した千野の歌が、その音像により濃密な色彩感とスリルを与えているのもいい。(高橋智樹)
"コワシテ"
④『透明な傘の内側より』
1st Full Album『透明な傘の内側より』
01. アイスランド
02. 第三質問期
03. 迷走
04. 青い瓶
05. 向日葵とヒロインと僕
06. うまくは言えないけれど
07. NO FUTURE
08. ホワイトライン
09. 透明な傘の内側から
10. ハッピーエンド
さあ、世界から逃げて、生きよう
3枚のミニアルバムを経てリリースされた、初にして現時点で唯一のフルアルバム。ミニアルバムではコンパクトにテーマを絞り込んで作品に落とし込んできた印象のあるGOOD ON THE REELだが、全10曲(+隠しトラック)というヴォリュームをもつ本作が提示するのは、より本質的で根幹的なバンドの思想や哲学といったものだ。アルバムタイトルが物語る、「シェルター」として「君」を守るという願い。《生きてるコトに意味なんて無いよ 君に触れたいそれがすべて》("迷走")、と「君」に対する絶対的な想いが世界を超え、《うまくいかないコトばかり うまく言えないコトばかり/大丈夫 いいんだよ》("うまくは言えないけれど")という無垢なメッセージへと結実する。《透明な傘の内側で 僕らは世界を欠席する》("透明な傘の内側から")──抽象的といえば抽象的な、しかしそのぶんだけ確信的な言葉。それが最後の"ハッピーエンド"で大きな意思となって花開くのだ。《私達はいつでも ハッピーエンドを待ってるの》。GOOD ON THE REELとは何なのか。このアルバムはその重要なヒントだ。(小川智宏)
"第三質問期"
⑤『マリヴロンの四季』
4th Mini Album『マリヴロンの四季』
01. 素晴らしき今日の始まり
02. ハイド&シクシク
03. 花
04. ただそれだけ
05. ユリイカ
06. 24時間
切実な想いだけが描ける、開放の風景
初フルアルバム『透明な傘の内側より』を経て発表された4thミニアルバム。冒頭から晴れやかに炸裂するメロディとアンサンブルとともに、《言えないコトバがあります/守れないイノチがあります/それでも生きていくから・・・》と己の無力感をも燃料にして前へ先へと突き進むヴァイタリティを鳴らしてみせた"素晴らしき今日の始まり"。不変の愛を希求するがゆえに《いつか枯れてしまうなら/そんなの花と一緒じゃないか》と残酷なまでに噴き上がる純粋さを麗しきバラードの熱唱へと結晶させた"花"……自分と現実に言葉の刃を突きつけ、時にはその不確かさの前に困惑しながらも、見果てぬ「今」の風景から揺るぎない真実を掘り当てようとする決意が、その楽曲と音像からリアルに伝わってくる。"ハイド&シクシク""ユリイカ"といったエモーショナルなナンバーも、めくるめく追憶の美曲"24時間"も含め、その真摯で切実な表現が誰ひとり排除しない開放感をもって伸びやかに鳴り響く──というマジカルな領域にGOOD ON THE REELの音楽が到達したことを、今作の6つの楽曲は歴然と証明している。(高橋智樹)
"素晴らしき今日の始まり"
⑥『オルフェウスの五線譜』
5th Mini Album『オルフェウスの五線譜』
01. 存在証明書
02. ガーベラ
03. いちについて
04. それだけじゃ
05. 願わないように
06. より
千野隆尋はなぜ歌うのか
いきなり個人的な話だが、この『オルフェウスの五線譜』がリリースされるタイミングで、僕は千野隆尋に初めてインタヴューをする機会を得た。その時に彼は「僕はひとりひとりを肯定する、全力で」と言っていた。その言葉こそまさにGOOD ON THE REELそのものだ。その肯定性が開花した作品。それが『オルフェウスの五線譜』である。何よりも1曲目の"存在証明書"。自分はなぜ生きているんだろう?という迷いや諦めに向けて放たれる最後の一行──《替えのきかない僕達の 存在に照明を》という「誓い」は、千野が歌い手として初めてはっきりと自身の「役割」と向き合った結果ではないか。解放感と大きさを増したその歌に導かれるように、サウンドはアグレッシヴに攻めている。まるでミニアルバム全体が大きな旗を振っているような頼もしさなのだ。そして最後の"より"で千野はこう歌う。《あなたにも終わりは来るけど その日まで生きていく》《死の向こうには何も無い だから僕はその時まで・・・歌う》。このミニアルバムこそ、GOOD ON THE REELの「存在証明書」だと思う。(小川智宏)
"存在証明書"
⑦『6番線の箱舟』
6th Mini Album『6番線の箱舟』
01. 水中都市
02. ゆれて
03. トワイライト
04. せい歌
05. 匿名
06. カルキニクハ
ロック・スタンダードの資格
その清冽なアンサンブルに宇佐美&高橋のビートが獰猛なうねりを与える"水中都市"。メロウなメランコリアに満ちた珠玉のギターロック・バラード"ゆれて"の陶酔必至の音世界。"トワイライト"のAメロでのキュートさすら覗かせるポップ感。それら多彩なアレンジと音像のどこからスタートしても、聴く者すべての交感神経をダイヤモンドで研磨するようなGOOD ON THE REELの覚醒感へと到達し得る──という確信と、そこから生まれるタフな包容力が、6thミニアルバムとなる今作では全編にみなぎっている。「触れるもの全部をGOOD ON THE REELに変えられる自信を手に入れた」と言い換えてもいい。《何かのせい 誰かのせい/こんな窮屈な世の中じゃ/そんな言い訳も世界のせい》("せい歌")、《匿名希望 明日は嫌い/誰でもない景色として/救いのフリした晒し合い》("匿名")……僕らの弱さを得意げに言い当てる絶望マニアの悦楽とは無縁の、自らの懺悔もこめて痛みとともに放射する彼らの音楽が、今すぐ日本のスタンダードになってもおかしくないロックの輝度と完成度をもって眩しく響いてくる。(高橋智樹)
"水中都市"