GRAPEVINEの新作『BABEL, BABEL』に収録された全11曲は、どれも恐ろしいほどの密度を持っている。先行シングル曲“EAST OF THE SUN”や先行配信曲“SPF”など、彼らお得意のスタイルのナンバーはもちろん、初の4つ打ち曲“Golden Dawn”やクールなグルーヴの“BABEL”など、アグレッシヴなサウンドで攻めてくる。田中和将(Vo・G)がサラリと歌う歌詞に詰め込まれた情報量も半端なく、聴くたびに新しい意味が解けてくる。もちろんそれも田中の得意とするところだが、もはや種明かしをしても平気なマジシャンの如く、田中が『BABEL, BABEL』収録曲について赤裸々に語ってくれた。

インタヴュー=今井智子 撮影=安田季那子

これまではフィクションに寄せて、そこで社会性や世の中のことを書いてきたつもりなんですけど、今回はもうちょっと生々しい

── 新作『BABEL, BABEL』、まず1曲目“EAST OF THE SUN”からお願いします。

「亀井(亨/Dr)くんが持ってきた段階から明るくて、リズムの感じとかノリの感じは軽めのソウルっぽいのを白人がやるノリなのかな。例えばジョン・メイヤーみたいな解釈なのかなーとか言いながら進めてましたね。で、ちょっとストレンジなものを、ということで、スティーヴィー・ワンダーとかがやりそうな、シンセのフレーズを入れていく、みたいな作り方でしたね」

── 歌詞は抽象的ですけど戦後70年を意識してるそうで。

「前作『Burning Tree』とか、その前の『愚かな者の語ること』とかだと、もう少し架空のストーリー仕立て、フィクションの感じに寄せてたんですけど。そこにも社会性であったり、世の中のことを書いてきたつもりではあるんですけど、今回はそこがもう少し生々しいのかなという気がしますね」

── 2曲目“Golden Dawn”は、源氏物語とタロットカードがモチーフですね。なぜタロットを?

「最初に《もののあはれ》を思いついてて、対比させるようなもの、そこにも社会的なものを組ませたいなというのがあって辿り着いたんですけれども。曲がかなり素っ頓狂なといいますか、ストレンジな曲なので、歌詞もぶっ飛んでていいんじゃないかなと」

── タロットカードの名前とか、『源氏物語』『たけくらべ』とか、いろいろ盛り込んでますね。

「ワードに関しては、いろいろ取り揃えて、どこにどう使うかを精査していくんですけど。だからカードの名前の意味とかも、すごい調べましたよ。そこに何しろ社会性を紛れ込ませなければならないので、もっと種類はあるんですけど、厳選に厳選を重ねて」

── 読み解きは大変だけど、何かに対するアンチは強力に打ち出されてます。

「そうですね、そこが伝わればいいかと思ってる。言葉自体はパンチがあると思うんで、フックとしては成功してると思いますけど。それが思いついた時点で、勝ったなと思いましたから」

── ワードは古典ですがビートは4つ打ちでダンサブル。GRAPEVINEが4つ打ちって、初めてですか?

「こんなに昨今世の中に溢れかえっているのにね。実は我々はやったことなかった(笑)。しかも初めてやったのがこんな曲かよって(笑)」

── 3曲目“SPF”は季節感を意識してたんですか?

「夏に作ってレコーディングしてたんで、自然に出てしまっただけなんですけど。曲が非常にポップなので、アレンジとしても優しいというか、わかりやすい。淡々としてるけど優しいアレンジなので、これは普通にシングルとしていけるんじゃないかなと思って、詞も優しく書きました」

── これは高野寛さんプロデュースですけど、どんな感じで?

「穏やか~にやってましたけど、ハーモニーに関して、うるさかったですね(笑)。これ3声ぐらい入ってるんですけど、ウエストコースト感を出すにはダブルにしてみようかとか、入れてみたけどウエストコースト感キツすぎるかなとまた1本に直してみたり。いろいろやって面白かったですよ」

── 4曲目“Heavenly”、これもぶっ飛んだ系のひとつ?

「最初は、エモい曲が足りひんからエモい曲を作ろうってやってたら、こうなりましたね。かなりふわふわしてますね。曲がそういう感じなんで、歌詞もそういうイメージ。曲をやってて、あんまり情景が浮かんでこないというか。映像イメージがものすごい、バベルの塔的な、もうてっぺんが霞んでしまっている、先から光が見えているような――あるいは、海底から海上を見上げてるような、そういう映像イメージしか浮かんでこなくて。この曲に“BABEL”とつけてもいいんじゃないかと思ってたぐらい。だから具体的な言葉を使うような歌詞じゃないのかな、という感じでしたね」

── 歌は中盤ファルセットになってるのが印象的で。

「地声でがっつり、熱く歌っちゃうと、クサくなってしまうので」

物申すぞ!と思って書き始めて、結果的にわしゃ何を言うとんねんっていう結論に至ることが多い。だったら俺の立場から見てどうなのかというのがどんどん入ってきて、最終的にいろんなものを含ませてしまう

── 5曲目“BABEL”は核になる曲だと思いますけど?

「歌詞については当然後づけですけど、曲は、実はプリプロの一番最初にできた曲で。前のツアーが終わって、次のアルバムに向けて作っていこうとプリプロに入って、最初にやったのがこれだったんですよ。最初はこんなにうまくいくと思わなかったですね。たまたまあのイントロのギターリフがあって。わざとそのギターリフとリズムが噛み合ってない使い方をしてるんですけど。ワンコードなんですよね、この曲。いかにワンコード、ワングルーヴで展開をつけていくかみたいなことでしたね」

── “BABEL”は今の社会に対して物申すぞ的な歌詞で。

「そうですねえ。いつも、物申すぞ!と思って書き始めて、結果的に、わしゃ何言うとんねんという結論に至ることが多いんですけどね。今回も、どこをターゲットにというのを、明確にはもちろんしていないですけれども。いつも思うんですよね。ちょっと毒っ気のあるものを書こうとしてても、そんなに俺は言えたガラなのかという気持ちにどんどんなっていく(笑)。だったら、俺の立場から見てどうなのかというのがどんどん入ってきて、最終的に、どっかに物申すというよりは、もっといろんなものを含ませてしまう感じになりますね」

── それは6曲目“EVIL EYE”にも通じるのでは。

「まあ“EVIL EYE”に関しては、ただのダメ男の逆ギレみたいなところがありますけど(笑)。曲は、わりと得意といいますか、ストレートなロックンロールなんですけど。実は、もっとあざといやり口のヴァージョンのも録ってみたんですけど、意外とクールなこっちの方がよくて。こっちのほうが80’s後半ぽいというか、90's前半ぽいというか」

── 歌詞に奈良県の吊り橋が出てきますね。

「そう、谷瀬の吊り橋という、有名なのがあるんですけど、ギターの西川(弘剛)が奈良出身なんで、さすがに吊り橋のことは存じてましたけどね」

── なぜ吊り橋が?

「単純に、吊り橋効果みたいなのをモチーフに書き始めたので、奈良県てシャウトしようと思って(笑)。あと《Kinky girl》と近畿をかけてるんで」

── 危機とかかってたのかと。

「危機ともかかってるんですけど、近畿ともかかってるんです。で、書いていくうちに、JRの『いま、ふたたびの奈良へ。』というCMがあったじゃないですか。それを見て、あ、奈良県にしよう、と(笑)。吊り橋といえば奈良県に有名なのがあるし、近畿やし、そこでうまいこといくな、と」

── 7曲目“Faithful”は女性の名前だと思いますけど、幻想的な曲ですね。

「これも亀井くんの曲がもとなんですけど、デモとはずいぶん様相が違うんです。仮タイトルは“ローラ・パーマー”(笑)。雰囲気がそうなってきたんで西川が寄せていって。鍵盤の音と、あのトレモロのギターの音がキモなんですかね。すごい気に入ってるんです」

── 音圧を上げて持ってくのもアリだけど、あえて抑制の効いた感じに?

「わりとそういうの得意なんだと思うんですよね、うちのバンド。そういう方が性に合ってるというか、年齢とともにそういうものが気持ちよくなってるのかもしれないですし。気持ちいいんですね、こういうの。演奏としては淡々と、非常にミニマルなものを目指してたと思うんですけど」

── 8曲目“Scarlet A”も。

「これはホーソーンの『緋文字』、まんまですね。シンガーソングライターがやるブラックロック的なノリというか。グルーヴの話ですけどね。で、バンジョーみたいな、ちょっとストレンジなものを入れることで世界観ができていく感じですね」

── そういうところから歌詞がこういう風に?

「そうですねえ、曲もマイナー調で、わりと僕らお得意な雰囲気だと思うんですけど。雰囲気が雰囲気なので、よくやる女目線みたいなのが出てしまいましたけどね(笑)」

── 後半はストレートに映画『ボニー&クライド』を連想しますね。

「そういうのを入れることによって、ホーソーンの方をぼかせるかなと思って(笑)。いつもやり方として――自分のやり方バラすのもあれなんですけど、何かと何かがうまいこといってないと、ひとつのテーマで書けないんですね。うまいこといったというのも僕基準なんですけど、自分の中で、これとこれでうまいこといくな、これとこれがかかって、その心はこうです、みたいなことが、うまいこといって完成なんですね」

── いずれも罪深い女かも、とか?

「そうそう(笑)。『緋文字』の女性は不幸なんですけどね。もうちょっと不倫部分を強調したというか」

── 田中さんの女性像が浮かび上がってくるみたいな?

「そうですねえ、けっこう業の深いのが好きなんでしょうか」

── これも高野さんプロデュースですね。

「バンジョーを入れる前に、弱音器みたいな、単純にギターをミュートするだけのものなんですけど、サステインがなくなってバンジョーっぽい音になるのを、こんなんあるんだよって持ってきてくれて。いろいろ一緒になって面白がってくれましたね」

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