Hi-STANDARD 突然の新作、メンバーの関係、パンクの在り方――横山健、全てを語る

Hi-STANDARD

横山健にHi-STANDARDとしてのインタビューをした。
事前告知なし/店頭販売のみでの16年ぶりのシングル『ANOTHER STARTING LINE』の衝撃的リリース、そしてハイスタとしての17年ぶりのツアー(東北・新潟)の発表、さらにカバーシングルの発売と、いよいよ本格的に動き始めたハイスタについて訊きたいことをガンガンぶつけた。健もガンガンに答えてくれて、細かいことというよりは今のハイスタの気持ち、姿勢、思想、現実について直球で語り合う、という内容になったと思う。Hi-STANDARDとKen Bandの活動との関係性についても訊きました。

インタビュー・撮影=山崎洋一郎

僕ら3人だけじゃなくて、世の中的に何かしたかったんでしょうね。で、今しかなかったんですよ、Hi-STANDARDの16年ぶりの音源でしか

――何の情報もなく、ある日突然『ANOTHER STARTING LINE』がリリースされたわけで、「最高!」と思ったけど「やりやがったな」とも思った(笑)。

「はははははは。それはあれですか、僕らがメディアを頼らなかったから『シカトしやがったな!』的な感じですか?」

――そういうパンクな手口っていうのがここ最近なかったから、いい意味での「やりやがったな」っていう感じ。すごい騒ぎになったよね。

「そうですね。予想してなかったですよ、ここまで発売方法が注目を浴びるとは。自分らを待っててくれる人たちにサプライズをしたいっていうのはあったんですけど、逆にサプライズですよね、僕が(笑)」

――このリリースの仕方は誰のアイデアだったの?

「だいたいこういうの考えるの僕なんですけど(笑)、でも『自分が言った』って思い出せなくて。ほんとに『なんとなく』なんですよ。なんとなく決まって、みんな『いいね』って思って。たぶん3人とも同じようなこと考えていたような気がするんですよ――誰が言ったとかって思い出せる?」

スタッフ「僕、思い出せます。みんなで会議してて、健さんが『いろいろあるけど、無告知でやったらシブいんじゃない?』って(笑)」

「ふははははは!『シブい』っていいね。シブさで決めました」

――何にびっくりしたかって、ほんとに情報が漏れなかったじゃん。

「漏れなさすぎて、逆に噂も回ってこないから『こりゃ売れないな』と(笑)。どっかから漏れちゃうんじゃないかっていう予想も少しはしてたし。でもみんなが楽しんでくれたんじゃないかなって思いますね、今や」

――これは完全に後付けだけど、パンクだなあと思った。既存のやり方と180度違うやり方で、しかも勝つっていうさ。結果、思わなかった?「パンクなことやっちゃったなあ」って。

「思いました、『格好ついちゃったなあ』って(笑)。でもきっと、僕ら3人だけじゃなくて、世の中的に何かしたかったんでしょうね。それの表れな気がすごくします。で、今しかなかったんですよ、Hi-STANDARDの16年ぶりの音源でしか。やっぱ『16年』っていう時の跨ぎ方がなかなかおもしろかったなと。言語化はできてなかったですけど、ワクワクはしてましたね」

「新しいHi-STANDARDになろう」「同じ3人だけど今は違う」っていう共通意識をみんなの中で持つための作業がすごく大切だった

――いつ頃から音源制作が始まったんですか?

「東北での『AIR JAM』が終わって、1回僕たちやることがなくなったんですよ。それでもなんとなく『月1ぐらいはスタジオ入ろうよ』っていう感じでやり始めたんです。そのなかで新曲のネタを試していくっていうのが2013年ぐらいですかね。でも集まると言っても、思い出話だの、最近の家族がどうだの、あの雑誌に出てるあのグラビアアイドルはどうだの、そんな話しかしないで。それで『ところで、新曲のネタあるんだけど』って試して。『うーん』っつって、次回の練習までにそれを忘れるっていうのをしばらくくり返してました(笑)」

――(笑)それは一体何のプロセスなんですか?

「たぶん、『新しいHi-STANDARDになろう』っていうプロセスだったんですよね。もともと90年代にやってたけど、『同じ3人だけど今は違うんだよ』っていう共通意識をみんなの中で持つための作業というか。それ、実はすごく大切だったと思いますね」

――これまでは、イベントに出るとか、あるいは「AIR JAM」をやるとか、ある種目的のために「ハイスタで動く」っていう形だったわけじゃないですか。

「そうですね」

――でも、集まって音を出したり、新曲を試したりっていうのは、何か目的のためにハイスタを作動させているんじゃなくて、ちゃんとバンドとして自然発生的に何かが生まれていくのかってことですよね。

「そうなんです。まさに2011年の『AIR JAM』の時に11年ぶりに集まって、人前に出て、ものすごい熱狂が目の前にはあったけど――難ちゃん(難波章浩/Vo・B)と恒ちゃん(恒岡章/Dr)はわかんないですけど、僕はものすごく冷めてたんですね。『これのどこがいいんだろう』『ただの懐メロじゃねーか』ぐらいにすごい悔しい思いをしたのが、やっと落とし前がついた感じですね。その悔しさをどうするか。このメンバーでバンドなんだから新曲を作って作品を出すべき。それが5年かかってやっとできた感じです」

――目的のために「ハイスタをただ機能させればいいじゃん」って割り切れるほど大人ではなかったってことなんだね、きっと。

「そうですね。逆にそれは一番したくなかったですね。自分では」

ハイスタは3人でっていうところももちろんありますけど、フロントマンはやっぱり難波なんで。僕はついていけばいいんですよ

――今、この3人の新しい楽曲があるってことは、ハイスタに新しい火が点いたってことだと思うんです。そう思えた瞬間というか、きっかけはあったんですか?

「曲を作ることとか、曲を作るために集まるっていうバンドの最も原始的な行為が一番のモチベーションだったかもしれないですね。『集まれてる』ってことが」

――たとえば、これからハイスタが音源作って新たに走り出す、必然を持って動いていくっていうからには自分の中で決着が必要だったと思うんですけど、どうですか?

「幸い、僕の場合はハイスタではギタリストだけど、Ken Bandではフロントマンなんで、そこの役割が違うのは大きいですよね。ハイスタは3人でっていうところももちろんありますけど、フロントマンはやっぱり難波なんで。僕はついていけばいいんですよ」

――それは変わらないんだ、昔のハイスタと。

「変わらないですね」

――そういう意味でも、ほんとにハイスタって始まったんですね。フォーメーションも昔のままで作動し始めたというか。

「そうですね。あとは、それぞれが――僕なんかとくにKen Band絶対に止めたくはないので、時間をどう組んでいくかっていう問題だけですね」

――そのへんは今の時点で考えてることってあります?

「僕が勝手に思ってるのは、Ken BandはKen Bandでボンボン予定入れてって、空いた場所でタイミングが合えばハイスタでライブをやれればなって思ってます」

――それはなんで?

「なんでなんですかね。わかんないす(笑)。誤解を恐れずに言うと、Ken Bandは自分のやりたいこと、Hi-STANDARDは世の中に求められていることっていう言い方もできるかもしれないです。『こうなったら両方やろう』っていうか、片方だけじゃ、もしかしたら自分も物足りないのかもしれないですし。今はそんな気がしますね」

「ANOTHER STARTING LINE」って今のハイスタを理解してもらうには一番の言葉だと思う

――シングルも聴かせてもらって、当たり前だけどものすごい本気を感じたし、健全にハイスタをもう1回スタートさせたいっていう思いが伝わる4曲だったんですけど。この作品に関して健さんはどう思われてますか?

「久しぶりにHi-STANDARDの3人で全力で曲作りに向かうのはすごく大変でしたね。それぞれ10年以上違う経験をしてきた人間たちが久しぶりに集まってやったにしては、よくやったかなっていう気持ちもあるし、『もっとできるぜ』って気持ちもあるし。4曲じゃ10何年間のブランクを表し切れないっていうのも正直なところで」

――僕は「見事だなあ」と思いましたね。きっと発信する側はいろんな表現すべきニュアンスとかもあるのかもしれないけど、まったく知らなかった人はここで初対面になるわけですよ。その時にものすごく的確な4曲って感じがして。

「今思ったんですけど、『ANOTHER STARTING LINE』っていうのがすごくよく表してるなって。あれ、歌詞を難ちゃんが書いたんですけど、いやー、よく言い切ったなあと。そこで理解してくれた人いっぱいいると思うんですね、『新しいスタートライン』だって。僕だったら、もしかしたら気恥ずかしくてそこまで言えないかもしれないです。難ちゃん自身も自覚してないかもしれないですけど、『すごい言葉を、すごいタイミングで』と思いましたね。今のハイスタを理解してもらうには一番の言葉じゃないですか」

――バンドとしてのハイスタじゃなくて、「日本における」とか、「みんなにとっての」、「2016年の」みたいな、みんなが求めているハイスタをやるんだっていう意識って、難波さんのほうがもしかしたら明確なのかもしれないですね。

「3人のなかでは一番思いは強いんだと思います。『ANOTHER STARTING LINE』って見た時、『いーじゃん、これ! このままタイトルでいいじゃん!』ってなりましたね。『これが今の俺たちだよ』って」

――一瞬にしてなれたんだね。

「なれました、なれました。20代ずっと一緒にバンドやって、世界中回って、30代で活動停止して――今は昔より仲良いんですよ。認め合えちゃうんですよね、年も取ってお互いの有難みがわかるというか」

――ハイスタに関しては、やっぱり難波くんがちょっと引っ張ってる感はあるのかなあ、今話聞いてて思ったけど。

「ハイスタに関しては難ちゃん強いですね(笑)。だから『この3人ってすごいバランスなんだな』って思います」

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