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――それこそtofuさんはネット世代っていうふうに言われ、実際ネットで表現をして、ファーストアルバムもインターネット上でフリーで聴けるような状態になっていて。
tofubeats そうですね。
――一方、小室さんもすごく早い段階から、インターネットに積極的にコミットされているんですけども、小室さんはインターネットと出会ってインターネットにコミットしていった時に、そこにどんな可能性を感じてらっしゃったんですか?
小室 僕の場合はレコード時代から経験してるので、スピードの遅さがもうやっぱりたまらなく辛かったんですね(笑)。スタジオでできあがった時からみんなに届くまでの期間、この時間のもどかしさっていうのがたまらなく嫌だったので、まだ初期の段階ですけど、とにかくスピード感は増すだろうなっていう。あと、すごく小説家の人たちとかがうらやましかった時があったんです。自分が見えない状態で、作品のみがなんの色もなく届いて、その人の独自の感覚だけでそれを楽しめるっていうことが昔は音楽ではなかなか難しかったんで、それがネットではできるようになるのかなっていう。ボーンといきなり飛び込んできても、よかったらそのあと調べればいいっていうことなので。それは期待してましたね。
――今のインターネットの世界における音楽のあり方っていうものに関しては、小室さんご自身はどういうふうに感じていらっしゃいますか?
小室 ここ1年か2年がすごい正念場というか過渡期というか、ネットの環境、インフラがどこに落ち着くのかと思うんですね。とにかくすべて、どこ行こうが、Wi-Fiが100%完璧っていう状況になれば、何もかもネットが取り囲んでしまえるんじゃないのかなと思うんですけど、日本っていう国があまりにもみんなが分散して始まったので、これからが勝負だと思うんですね。今言ったように取り込めたらすべてのものができるので、データさえあれば、ハードはユーザーが選べるから、アナログ盤で聴きたい人は聴けるし。
tofubeats アナログを作っちゃえばいい。
小室 そう(笑)。CDで聴きたい人はCD作っちゃえばいいっていう。全部自分の好きなようにできるところまでインフラを作れるかっていうのが勝負かなあと。僕が一番最初にびっくりしたサンプリングレートって、100kHzを聴いた時だったりするので。今ハイレゾっていったら1ギガ以上ですけど、アナログを全部解析したら、もうちょっと行っちゃうかもしれないですし。
――それだけのデータを扱えるインフラができるかどうか。
小室 うん。これは間違いなくふたりとも同じように思ってると思うんですけど、スタジオで聴いてる音が発売されると悪くなるわけですから。劣化して発売されてるわけですから。
tofubeats 数字的にはそうなっちゃいますよね、絶対。
小室 そう(笑)。っていうのが変な話だなっていうことは間違いないので。
――tofuさんは物心ついた時からインターネットがあったわけですよね。
tofubeats そうですね。iTunesでもリリースするのに1週間か2週間かかるじゃないですか。それが僕はたまらなく嫌だったのを覚えてるんです。だからアルバムもネットで、今もストリーミングでCDと同じサンプリングレートで全部聴けるようになってて。だから逆に今の小室さんのお話を聞いて、ちょっと「おおー」と思って(笑)。作ったものをやっぱりすぐ聴いてほしい、そのまま聴いてほしいっていう、みんなの欲望そのものなんで。
小室 その通りですね。
tofubeats 逆にそれが当たり前だと思ってたんですよね。だからすごい面白かったです。インターネットはさっきも言いましたけど、地元っていう感じなんで、全然なんにも、生まれた時に新幹線があったから東京に行けるみたいな。よく言うんですけど、生まれた時に飛行機があったかなかったかぐらいの話で。あるからおかげでアメリカに普通の人が行けるみたいな、そういう感じの話な気はしますけどね。生まれた時から、できた曲はすぐ世に出せるものだと思ってた。
今のスピード感って、聴きたいと思ったら今すぐどうにかスッと手に入らないのって、今入れてよっていう感覚ですよね(小室)
最近よく友達の作曲家と話してるのは、予言ができないとダメだっていう。「今」の「い」ぐらいでもう出てるぐらいの感じがちょうどいい(tofubeats)
――インターネットと音楽の関わりを小室さんはずっと見てこられたわけですけど、インターネットが発展することによって、生まれてくる音楽とかに変化はあったと思いますか?
小室 あったと思いますね。あたためるっていうことで寝かすみたいなことがなくなった。あえてやる人たちはいると思いますけど、最初にインスピレーションで出たものを世の中の人が聴けるっていう。やっぱり1ヶ月、3ヶ月、2週間でもいいんですけど、作ってから時間が経つと、絶対に「これでいい」と思った時と感覚は変わってると思うので。あと、バンドとかチームで音楽を作る人たちのインプロビゼーション的な、即興の瞬間も今ならその場で音が出せる。だからそれはそれでみんなに聴かせておいて、また同じものを1ヶ月後なり、何ヶ月後にやってみたらこうだった、みたいなことも今はできるわけなんですよ。1回作っちゃったら何もできない、取り返しがつかないみたいなことはないので、そこらへんはずいぶん違うのかなと思うし。だから感覚としては、今聴きたいと思ったら今すぐどうにかスッと手に入らないのって、今入れてよっていう感覚。
tofubeats それはそうですね、ほんとに。
小室 そのスピード感を今の世の中みんなが共通して持っていると思うんですよね。だからそれよりもさらに突出してる人がクリエイターの人で。ちょっと先に、さらに先を行って。みんながこんなのあったらいいんじゃないのかなと思った時には、それがもうできてるっていう感じですかね。
――それこそtofuさんが、iTunesで2週間待つのも遅いっていう。
tofubeats そうですね。最近よく友達の作曲家と話してるのは、予言ができないとダメだっていう。まさにスピードの先に行かないと。
小室 うん、そうだね。
tofubeats そうしないと今のインターネットやってる人が求めてるものはできないって話はよくしますね。そんなのは無理なんですけど、そのくらいの気持ちでやらないと、今みんなに受け入れてもらうには。
――今っていうよりも、その先で何が受けるのかっていうことですか?
tofubeats ほんとちょっとだけっていう話だと思うんですけど、「今」の「い」ぐらいでもう出てるぐらいの感じがいいのかなと。
小室 ちょっとフライングぐらいでいいと思いますね(笑)。
――あんまり先に行きすぎちゃうと。
tofubeats そんな直線でもないという。あんまり早く行きすぎたら、たぶん逸れていく気もするし。
――なるほど。せっかくなんで、tofuさんから小室さんに対して質問はありますか?
tofubeats 質問ですか! 小室さんがクラブミュージックとかシンセサイザーのことをJ-POPに落とし込むみたいなことやってた時に、一番意識してらっしゃったこととか、常にこれはやってたな、みたいなことってあったりとかしますか? 最初から結構、シンセ触ってはったじゃないですか。だから自然な流れだったのか、それともこれをどうにかそういうポップのフィールドに持って行こうっていう気概を持ってずっとやられてはったのか。
小室 そうだね、J-POP、ポップっていうぐらいなので、やっぱり100人、1000人ぐらいの単位の人に気に入ってもらうものではいけないっていう感覚がどっかにあって。あの時代でいくと、やっぱり10万人、15万人、もうちょいいくと100万人、さらに200万人という、やっぱり何10万人単位の人がいいねと思わないと、ポップという言葉は使えないんじゃないのかなっていうのは思ってたんで。だから自分のやりたい音、すごく向こうの人の気持ちいいなと思うものをやっても、これだったら100人くらいしかいいなって思わないかもしれないな、クラブのハコだったら気持ちいいかもしれないけれどっていう。それをどれだけ広げるか、ポップというものに考えて落とし込むっていうことはやったかもしれないですね。どこは残して、どれぐらい日本人が必ず気持ちいい要素も入れていくか、みたいな。間引くのと足していくのと、駆け引きはしていたかもしれないですね。
tofubeats やっぱり出発はどっちかって言うと自分の好きなところから始めて、少しずつ寄せていくっていう感じなんですね。
小室 寄せていくと、いいと言ってくれる人数が増えていく(笑)。それがきれいにいった時が成功した例っていう感じなんで。やっぱり最初は絶対に万人ありきではなくて。
tofubeats ああ、そうなんですね。
小室 そう。どうしてもやっぱり自分がかっこいいなと思わないとダメで。ハウスが出た時にハウスがいくらいいなと思っても、このままではダメっていう。そこから抽出してやっていると、「これ、元ネタはハウスなんじゃないの?」とかわかる人が出てくるんだよね、その中から。その人たちが大きくなってというか(笑)、業界の人とかになってくれて、そういうことをみんな伝え出してくれて、だんだん広がっていくっていう現象があったりとか。tofuくんはそういう制作プロセスとかはそこまでは見せない?
tofubeats 僕は全然丸裸にしてます。逆にインターネットなんで、シェアして。
小室 トラックとかも?
tofubeats 全部もう、パラデータとかも出しちゃう。秘伝のやつとか一切ないです。
小室 なるほど。
tofubeats 自分のDTMの師匠はGoogleなんですよ。Googleとインターネットで知り合ったフォーラムとかの人たちなんで、メジャー入るここ2、3年とかでスタジオの人とかにお世話になったりとかして、やっと実地の技術を教わってるんですけど。制作はずっと家ですし、声録る以外でスタジオ使うこととかもほとんどないんで。自分がそうだったんで、逆に言うと自分より下の人に情報を置いておかないと、みたいなのがありますね。今はもうみんなソフト持てるから。オープンリールを持っていないと編集ができないみたいな話でもないので、だからそんなに隠すもんでもないかなっていうのはありますね。
小室 じゃあほんとに一番速いですね。スピード感として。
tofubeats みんな隠さない、お互いに全部技術は共有していくみたいな感じですかね。同世代の人たちとかは。
――その中でオリジナリティーというか、そういうものっていうのはどういうふうに位置づけていますか?
tofubeats 当たり前の話なんですけど、釘を木に打つのだって100人いたら100人違うっていう話で、みんな打ち方は知ってるけど、同じのには100人いたらどうしてもなんないんですよね。それはもうわかってるし、諦めてる部分もあるっていうか。ものすごい頑張ったら似たものは作れるんですけど、一緒には絶対なんないんで、それは気にしなくていいのかなっていうふうに最近は思うんですけど。
――ほんとに共通言語みたいなものとして。
tofubeats そうです。技術とか何使うとかは結局好みが分かれるんで、ポップなもの作りたいなと思っても、ひとりずつちょっとずつ角度が違うと思うんで。逆にそれを見たいし、自分もどういうふうに作るのか興味あるっていうか、自分が作った曲がどんなのになるか自分で興味がある。みんなで一緒に打ってみたのに、なんか違うねっていうのをみんなで見たいっていうのはありますね。
小室 全世界的にtofuくんぐらいの世代がこれからは引っ張ってくると思うんですよ。実際にマーケットもそうなので。だからここからどういうふうになっていくのかなっていうのは、この人たち世代次第だと思うんですよね。ネットも含めてこれからもまだまだ進化するんですけど、過渡期の人たちが一番大変だったと思うので。ほんと90年生まれの人から生まれるものっていうのは、カルチャーとしては大きなものになるんじゃないかなと思うので、すごく期待してますね。
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