
佐賀・唐津出身の5人組ガールズバンド、たんこぶちん。小学6年生でバンドを結成した彼女たちの青春には、どのページにも「たんこぶちん」があった。バンドは彼女たちの成長の軌跡そのものであり、それを象徴するように、彼女たちのアルバムは『TANCOBUCHIN』、『TANCOBUCHIN vol.2』、そして最新作『TANCOBUCHIN vol.3』というタイトルがつけられてきた。
たんこぶちん第3章にあたる最新作のテーマは「10代最後の夏」だ。情熱的なテンションの四つ打ちロック“ze ze ze”、ブロンディ“CALL ME”を彷彿させるような挑発的&大胆なトラック“Tell me”など、サウンドは陽性で強靭。しかし、そこに載せられているのは《最後の夏》《最後の花火》《カタチあるだけで何もかも/空っぽなのか》といった繊細な言葉だ。終わりゆくもの、失ってしまうもの、永遠には続かないものに気づきながらも、その事実を受け入れられるほどまだ大人でもない。そんなモラトリアムの真ん中にいる等身大のたんこぶちんが素直に鳴っている最新作。メンバー全員に訊いた。
10代最後の大事な年に、ちゃんと残せてよかったアルバムになりました(YURI)

──『TANCOBUCHIN vol.3』が完成しましたが、作ってみてどうでしたか?
MADOKA(Vo・G) 今回は「10代最後の夏」がテーマなんですけど、夏の「楽しい!」「弾ける!」とかだけじゃなくて、せつなさとかそういうものも詰め込めたアルバムになっていて、いろんな人の胸に届くんじゃないかなあと思ってます。
YURI(G) 私たち今年が10代最後なんですけど、そういう大事な年にちゃんと残せてよかったアルバムになってますね。
CHIHARU(Key) 10代最後に演奏した音を詰め込んだし、将来振り返ったときにやっぱり印象深いと思います。子どもからおとなへの境目みたいな感じ。20代に出すのと、10代最後の気持ちっていうのは、やっぱりちょっと違ってきそうな気がするから。
──それをちゃんと残しておきたいと思ったっていうことなんですね。
NODOKA(B) 1stアルバム(『TANCOBUCHIN』)から2nd(『TANCOBUCHIN vol.2』)を作ったときの変化と、2ndから今回の作品を作ったときの変化って違ってて。なんて言えばいいんだろう……もう私たちは子どもじゃないです(笑)。
──(笑)。『vol.3』の話をするまえに、1stと2ndを今振り返ってみて、どういう作品だったと思います?
MADOKA 1stは……「青春」?
YURI THE学生みたいな感じ。
MADOKA ジャケットも、制服みたいなの着て走ってるんですよ。
YURI まだ高校生だったよね。
HONOKA(Dr) 卒業……の2~3ヶ月前だっけ?
MADOKA そう、そのくらい。“走れメロディー”っていう曲があるんですけど、みんなで書いたんですね、歌詞を。学生時代の思い出とか、学校から見える風景とか、学校でワイワイしてるような感じが詰まってて……まさに「青春」と「卒業」って感じです。で、『vol.2』はライヴ映えする曲がたくさん入ってる。リリースしたあと、3月にワンマンをやったんですけど、ライヴの作り方や流れもちょっと変わったなって思います。
──2ndはすごく振り幅があったアルバムでしたよね。
MADOKA はい、バラードとかも入ってたので。
──そこからの『TANCOBUCHIN vol.3』なんですが、より主観的になって、描く世界の解像度が上がった気がしたんですよ。「10代最後の夏」っていうテーマ自体がそもそも完璧なたんこぶちんの主観なんですけど、それをテーマにすることによって作品の表現が一段階細かいところまで入り込んだ作品なんじゃないかなって。
MADOKA 『vol.3』に入ってる曲が持つ感情や気持ちは、その一曲一曲によってすごく違いますね。特に“花火”なんですけど、今までのたんこぶちんとは全然違うんですよ。歌うときにも「なんだろう?」って考えながら、練習もいっぱいした曲で。それによってその後の自分が作った曲を歌うときにも、モチベーションとか歌い方が変わったなって、自分で思いましたね。
YURI 私たち演奏する側もやっぱり、そういうMADOKAの声の表情とかに合わせて演奏しなきゃなって思いました。
“花火”のデモを聴いたとき、この曲でもっと大きいとこに行けそう、いろんな人に聴いてもらえるなって思いました(MADOKA)

──込められている感情の部分で言うと、聴いていて強く感じるのが、逃したくない瞬間と、それでもいつか終わってしまう時間への執着だと思いました。
MADOKA そうですね。10代最後に限らず、夏とか夏休みって楽しいものだけど、やっぱり終わりが来てしまうもので、それってなんかすごくせつないじゃないですか。それと、私たちが今すごい大事にしてるライヴっていうものも、30分、1時間、2時間……楽しい時間をお客さんと共有できるけど、すぐに終わってしまう。それともなんかちょっと似てるなあと思ったんですね。
──なるほど。"花火"は、歌詞的にはラブソングですよね。
MADOKA はい。
──2ndにも"涙"ってラブソングはありましたけど、単純に恋愛における不安や不安定さというよりも、「今この瞬間が終わってしまう」「終わらないで」っていう感情にフォーカスしてる。この曲はどんな感じでできていったんですか?
MADOKA これは大久保(友裕)さん作曲で、詞は私と共作なんですけど、大久保さんには3月のO-WESTのワンマンライヴを観てもらって書いてもらったんですね。デモが3曲、“ze ze ze”と“花火”ともう1曲きたんですけど、「なんだこれは!?」と思って。耳に残るしキラキラしてるし、サビも覚えやすくてキャッチーで……なんて言えばいいんだろう、夏の名曲だなってすごく思って。この曲で、もっと大きいとこに行けそうだな、いろんな人に聴いてもらえるなって思いました。
──この曲を聴いて「あ、私の曲だ」って思う人、たくさんいると思うんですよ。この作品は、このMADOKAさんの目線や描く情景、そこに込められている「いつか終わってしまうんだ」っていう気持ち――だから心に刻まないといけないし、見逃したくないんだっていう思いに、たくさんの人が共感できる、そういう仕組みになっていると思います。
MADOKA “ze ze ze”も大久保さんからデモ送られてきたときにイメージとしてあったのは、夏全開の眩しい青空の下、海で男女グループが夏を楽しんでる感じで。でもそれがやっぱり終わっちゃうってことがわかってるから「ここに何か、私たちがいたことを残さなきゃ」とか、そういう「楽しい」と「せつない」がある曲になってて。
──《忘れた頃消えていくから/ここに残さなくちゃ》とか《波に消えないで》とかね。ギターはこんなにイントロから――。
YURI はい、疾走感ある感じになってます(笑)。
──なのにこんなせつない歌詞が乗っちゃう(笑)。だから、作品全体がリアルだし、立体的なんですよね。相反する感情がきちんと両立して、共存してる。
MADOKA 受け入れることと受け入れたくない自分、子どもな考えの部分とちょっとずつおとなになり始めてる考えが、混じり合ってるんですね、今。ちょっと話がずれるかもしれないんですけど、私たち小学校からずっとバンドをやってて、ライヴに行ったら「まだ若いね」「若いのにうまいね」って言ってもらうこともあって……でも今は高校も卒業したし、私たちもう「若いのにうまい」とかそういうレベルじゃダメだなって、甘えじゃないですけど、そういうのは捨てなきゃダメだなって感じてて。
──若さっていうハンデじゃなくて、本質で勝負しないといけないって認識したと。
MADOKA そうですね。それでちょっとずつおとなになり始めてるんですけど、そこが結構、ケンカをするというか…… “アイスクリーム”って曲がそうなんですけど。
──《魔法をかけてくれよ》っていうフレーズがありますね。これは?
MADOKA アイスってちょっと子どもっぽい食べ物っていうか、子どもが好きな食べ物っていうイメージなんですよ。私はまだまだアイス好きなんですけど(笑)、悩んでるときにいっつもアイスを食べたくなるんですね、っていうか食べるんです。ちょうどこの歌詞をどうしようかな?って考えてるときに、「アイスでも食べながら考えよう」って思ってコンビニまで行って。そこで「あ、アイスクリームをテーマにした曲を1曲作ろう」って思ったんですね。それでボイスメモに歌いながら帰ってて、で、家帰って「さあ歌詞書こう」と思ったときに、「♪アイスクリーム、うおっ!?」ってなって(笑)。悩んでるときアイスを食べたことでこの歌詞が生まれたんで、アイスクリームがヒーローっていうか、「助けて、アイスクリームマン!」みたいな(笑)。
──アイスクリームマン(笑)。正義のヒーローですね。
MADOKA そういう子どもの部分と、サビでは《嘘つき わがまま/魅惑の力がほしいよ》みたいな歌詞があって、そこはおとなの段階を上がっている自分。そういうのがちょっと入り混じってる曲になってます。あと"友達の声"もかな。そういう、子どもの部分との葛藤が入り混じってるのは。

──この歌詞もまたせつないですよね。《カタチあるだけで何もかも/空っぽなのか》って……どうしたんですか?
全員 (笑)。
MADOKA これは去年の11月ぐらい、まだ上京してないときに実家で作ったんですよ。最初は「小学生の夏休み」をテーマにして作ろうと思ってて……楽しいじゃないですか、夏休み。小学生とか、毎日プールに行ったり、ラジオ体操で「毎朝6時半に起きるの嫌だな」とか思いながら起きて行ったり、宿題が残ってるけど遊びたいなとか……そういうことを詰め込んで書こうって思ってたんです。でも、こっち来てもう一回考えたんですよ。楽しいだけだった夏休みを今振り返ってみて、そうすると……あの頃に戻りたいけど、でも今自分はおとなになっていってる。さっきも言った、受け入れる、受け入れたくない自分が見えてきて。“アイスクリーム”とちょっと似てるんですけど、そういうところが詰まってます。
──書き直す必要があるなって思ったわけですよね。
MADOKA そうですね。「小学生の夏休み」をテーマに書こうとしてたときは、青空とかプールの透き通った水の色みたいな色をイメージしてたんですけど、こっちに来てもう一回歌ってみたときは夕焼けみたいな色の曲だなと。それで書き直しました。
──《返事を声に出したよ ただ響いただけだけど》って、響いただけで届かないんですよね、その声は。
MADOKA 小学生のときはわいわいやってて、「おーい、何々ちゃん! 遊ぼうよ!」みたいな、そういうイメージなんですよ。それが聞こえたけど、それで返事をしたけど、あ、今じゃないやっていうか……そういう情景ですね。取り戻したいけど取り戻せない、今をちゃんとやっていかなきゃいけないっていう、葛藤っていうか。
──上京して音楽でやっていくんだっていう覚悟と、大人にならなきゃいけないんだっていう意識のなかで、とても漠然とした言葉ですけど、すごく考えて作るようになってますよね。
MADOKA そうかも。
──それはみなさん、共通の認識ですか? 上京してからの意識の変化というか。
CHIHARU そうですね。やっぱり上京するってなったときに、今までは地元で家族に支えられながら過ごしてきたんですけど、これからは音楽一本でがんばっていこうって決めたから……バンドのことももっと真剣に意識を高めていかないといけない、もっと考えないとなって思いました。
HONOKA 『vol.3』でいうと各メンバーがそれぞれ新しいことにチャレンジしていて、私は音作りなんですけど、今まではドラムテックさんにやってもらってたんです。でも今回からは、自分も音作りにたずさわれるようになりたいと思って、準備してるときもテックさんの横で「こういう曲のときはこういう音がいいんじゃないかな?」みたいなことを一緒に話しながら進めたりして。そういうドラムの技術はもちろん、ひとりの人間としての成長も見せていかなきゃいけないな、みたいなことも、上京するって決めたときに思いましたね。
YURI 私は高校卒業したときにすごく思いましたね。もう女子高生バンドっていう肩書きもなくなるし、ひとりの人間として、社会人として生活していかなきゃいけないんだなって。今は今で、デビュー1周年とか2周年とか節目が出てくるじゃないですか。その度に自分もっとおとなにならなきゃって思いますし。
──そういう環境の変化と、大人になっていっているという心境の変化が素直に表れたアルバムだと思います。そこで、喜怒哀楽の、喜と怒の間の感情とか、そのまた間の感情とか、そういう一個踏み込んだところまで考えて作るようになった印象があります。
MADOKA そうですね。でもそれをすごく意識してやったわけじゃなくて、こっちに来て自然とそういうふうになって、そういう曲たちが集まったアルバムになってて――今後ライヴでやってくと思うんですけど、ひとりひとり、曲が持ってる感情とか、その気持ちとか色とかを演奏や歌で表現して、それがお客さんに伝わることが今後の目標ですね。