ロックの詞って自己分析的なんですよ。で、自分がよくわかるんだけど、それで食べ物のことばかりが出てくるっていうのは、ほんとに飢えてるのかなあっていう(笑)(大槻)

素直ですね、歌の内容は。「おいしい! 歌にしよう!」っていう感じですから(笑)(大澤)

──"スシ食いねェ!"は珠玉の食べ物ソングですよね。

大槻 そう。ああいうことなんですよ。それ以外の、ちょっとおもしろおかしいことやってウケてやろうっていうバンドが、食べ物系に手をつけるけど、ほんとに危険なんですよ。で、打首を最初に聴いた時にね、あ……やっちゃったぁと。続かねえぞ、これって思ってたらめくるめく――老人と孫の“まごパワー”なんてね、別に老人社会のことを斬ってるわけでもないんだよね。ただ老人は孫が好きだってことを歌ってる。強烈だなって思って(笑)。で、映像を観たらライヴもそうだったから、打首はひとつそれを乗り越えたなと。

大澤 すごい自信がついてきました(笑)。

──ははははは。分析の視点がさすがですね。

大槻 でもそれでね、僕はまた考えるわけさ。これは逆に、大澤くんの作詞者のね、深層心理や強迫観念が出てるんではないかと。つまり愛のことであるとか、人類のことであるとか、問題意識とか、自分はこうである、ああであるみたいな自己分析とか、そういうことを自分は歌ってはいけないとか、歌ったら恥ずかしいとか、そういうストッパーがかかってんじゃない?

大澤 確かにできなくなってはいます。

大槻 だから逆に、この詞が深層心理なんじゃないかなと思って。大体歌詞って、特にロックの詞って自己分析的なんですよ。で、自分がよくわかるんだけど、それで食べ物のことばかりが出てくるっていうのは、お腹が減ってるというか(笑)、ほんとに飢えてるのかなあっていう。

大澤 ある意味ハングリー(笑)。

大槻 それがハングリー精神――愛に飢えてるとか、違うものがあるのか、ほんとに常にお腹がすいてるのか。

──前者か後者かで意味合いがだいぶ違ってきますよ。

大槻 後者だったらほんとに、ただの食いしん坊ですよ。で、どっちなんだよ?(笑)。

大澤 今のところ、後者な可能性を否定できなくて焦ってます(笑)。ツアーとか行くと、やっぱり貪欲に各地の名物を食べたがりますね。ライヴのリハーサルで大体3時から5時ぐらいに空き時間があるじゃないですか。名物があるお店に「よーし、行こう!」と思って行くと、3時から5時ってよくお店の休憩時間なんですよね。で、ものすごい落ち込むんですよ。地方まで行ってコンビニ弁当とかチェーン店で牛丼食べるのは屈辱で。ライヴのモチベーションにも影響しますし。

──後者でしたね(笑)。

大澤 ははは。

大槻 浅いんだ、単純に。これはね、ディスってんじゃないよ? 詞として深いところを探るのと、言葉の浅い部分をずーっと歩いていくのと、別にどっちが偉いとか偉くないとかないからね。でも食欲じゃなくてね、何かに飢えてるんだよ。常に満ち足りない、人からの愛であったり、あと金銭欲であったりする場合もあるしね。性欲である場合もあるだろうし。

大澤 金銭欲はよく歌になってます。

大槻 ああ、福澤諭吉の(“カモン諭吉”)――あれもね、ここまで素直に金が欲しいっていう歌をねえ。

──どストレートに欲しいものを全面に出してて、潔いですけどね。

大澤 あと“フローネル”って曲が、♪風呂入って速攻寝る計画~って歌なんですけど、家まであと3分で着くっていう帰り道の路上で思いついたんですよ。すごく浅いんです(笑)。

大槻 これね、逆にそういう深度っていうのかな。そういうあたりを狙ってずーっと歌ってくのは大変なことなんですよ。人ってどうしても深いことを歌いたがるし、歌おうとするから。

──欲望に忠実というか、純粋というか。そんなイメージも曲を聴いててありますけど。

大澤 まあ素直ですね、歌の内容は。「おいしい! 歌にしよう!」っていう感じですから。

大槻 いや、すごいよ。できないよ、それって。絶対そこに意味を持たせようとするんだよ、歌詞を書く人って。それが普通なんだよ。だから打首は異常なんだよ。

大澤 異常なんですね(笑)。

大槻 うん(笑)。だからロックだよ。実は僕も最近、食べ物の詞を書いてくれってオファーを受けてるとこなのね。ちょっとそれで困っちゃって。僕の中ではそういうもののトップは“スシ食いねェ!”だから。あれから何を歌ってもみんな、シブがき隊の手の中にいるからさ。でも、打首はまた違うとこにいるっていうか。

大澤 ありがとうございます。でも確かに俺、“スシ食いねェ!”がある限り、寿司の歌だけは作れないと思ったんですよ。寿司は食べ物ソングの中では禁断の領域だったんで。

大槻 やっぱりね、これはみんなの集合的無意識ってやつですよ(笑)。ユングはね、人間の心理の下に普遍的な深層心理というものがあって、その中で人間は結ばれてるっていう。で、ロックの人たちも、このままロックが初老以降の音楽になっていいのかって時に、子供を狙うっていう意識が浮かんだんですよ。そこで、子供が好きなのは――うんち、おなら、食べ物ですよ。

──確かに(笑)。

大槻 うんち、おならにいったら、スカトロかと言われるじゃないですか。そういう部分で、それはやめとこうと。で、食べ物だっていうところに全ロックミュージシャンが集合的無意識で、ユング的に気づいたんだと俺は思ってるんですよ(笑)。

大澤 いつの間にか導かれてる感じ?

大槻 そうですよ。だから打首もここに来たんだよね。じゃあ次俺、それ行くわ。意識的に行く。

ブレられないと思います。自分の中で何かが尽きたらこのバンドの止め時なんだろうなと思ってる(大澤)

──(笑)今、大槻さんはリミッターを外そうとしてるとこなんですか?

大槻 そうなんです。ほんとにそう。僕の中では、歌詞に意味を持たせなければいけないって、深いことを歌っている、歌おうとしてるように見せなければいけないっていう――でもそこでね、井上陽水さんの“アジアの純真”とか、“リバーサイド ホテル”とかの歌詞もそうだけど、なんにも言ってないんだよ。でも詞としてすごいのよ。ああいうようなものを僕は狙っていたんだけど、そこはどうも自分の中であざとさに繋がらないだろうか?みたいな意識もあったわけですよ。

大澤 一瞬考えてしまう。

大槻 うん。で、今も筋肉少女帯と特撮と、ふたバンドで詞を書いてるんですよ。いろんなダブルミーニングであったり、意味を持ってないように思わせて意味を持ってるとか、意味を持たせてるように思えて持たせないとか、あの手この手でやってたんですけど。だから僕が作った“日本の米”って曲も、《君は米を知っているのか?/日本の米を知っているのか?/君は米を食べているのか?/日本の米を食べているのか?/米米米米……/知らないのか?/納豆にネギを刻むと美味いんだ》って、ただそれだけの歌詞で。僕それを、高校1年生の時に作ったんだけど、その頃日本中がジャパニーズニューウェーヴブームで、フォークとかそのあとに出てきたパンクなんかにも対抗する、無意味でシュールっていうことがかっこいいみたいなね、そういう歌を歌ってんだけど。理屈から入ってんのよ。ほんとに無意味なことを歌って、パンクのアンチテーゼでいこうと思って“日本の米”っていうのを作ったみたいな。“日本印度化計画”も、あれは《オレにカレーを食わせろ》っつってんだけど、じゃあ《日本を印度にしてしまえ!》っていう、あれはクーデターの曲なのね。そういうのがあったのよ。だから、打首も──。

大澤 僕は新潟で米を食べただけです。「おいしい!」って(笑)。

大槻 うーん。すごい。

大澤 そしたら、感想を寄せていただくわけですよ。「今TPP問題で揺れている中、日本の米を応援する気持ち、大変わかります!」。ああー!!……っていう(笑)。

大槻 ははははは。

──ついつい人は深読みしてしまいますからね。この言葉の裏には何かあるはずだ!!って。

大槻 俺もしちゃったよ、もうたくさん。逆に人生のガーンときた事件とか失恋であるとか、そういうものを詞にしたりっていうのは?

大澤 したことまだないんですよね。

大槻 なんでしないかな(笑)。

大澤 はははは。

大槻 あと漠然とした何かとか、悶々とした思いとかね。

大澤 ……なんかあったっけな?

大槻 「なんかあったっけな?」(笑)。いいよ。相当いいよ。普通さ、バンドにひとりそういう奴いるんだよ。で、絶対そういう奴は詞書かないからさ(笑)。そういう人がメインで詞を書いたらこうなったって、すごいことだよ。しかも量産体制に入ったっていう。ロック史をひもといてもないよ、そういうの。

──ロックっていうものが昔はカウンターだったのが、どんどんいい意味で大衆化されていって。で、打首はそれの究極の形を今やってるってことなんですかね。

大槻 カウンターカルチャーのカウンターからもう、食い物屋のカウンターに変わったんだよね。

──はははは。

大澤 なるほど。カウンター形式かもしれない(笑)。「はい、焼き鳥お待ち!」とか。

大槻 すぐ出せるっていうさ。旨い、早い、安い、トンッ!っていうね。つまり集中力が「自分とは何か?」とか「人生とは何か?」とか、そういう曖昧とした人生の不安に向かないからいいんだと思う。このままそういってほしいなあ。

大澤 たぶんブレられないと思います。自分の中で何かが尽きたらこのバンドの止め時なんだろうなと思ってるんですけど。リスナーも予想してくるんですよ。「次はこの食べ物じゃないですか?」って(笑)。だから、このあと自分の中で釣りがマイブームになったら、“スシ食いねェ!”とは違う魚の連呼が始まると思いますし。あと、蕎麦もちょっと興味あるんですよ。でも蕎麦の歌を作るには、俺1回蕎麦を打たないといけないんで(笑)。実際、これ(『日本の米は世界一』)のジャケットの米も、田植えと収穫やったんですよ。

大槻 ……(笑)。

大澤 すいません、さらっと言っちゃって(笑)。

大槻 ははは。いや、いいと思う。おかしい、おかしいよ。今度フェスとかで会いましょうね。

大澤 楽しみにしてます!

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