アルバム・デビューから20年の節目を迎えたウィーザーが4年ぶり:9作目のオリジナル新作と共に帰還する。前作『ハーリー』発表後の彼らはツアー/ライヴ活動をコンスタントに続けており、スコット&リバースのデビュー、『パンクスプリング』他の来日トピックもあった。ゆえに「帰還」の形容は大げさかもしれないが、前3作が1年おきの超ハイ・ペースで発表されたことを思い返せば新作『エヴリシング・ウィル・ビー・オールライト~』をじっくり型の「勝負作」と捉えたくもなる。しかもプロデュースに青盤&グリーン・アルバム以来となるリック・オケイセックが登板となれば──ファンの注目度が過去数作より高くなるのは当然だろう。
そうした期待に応えるように、新作はばりばりのギター・ロック回帰作になっている。“バック・トゥ・ザ・シャック”の歌詞に「Maybe I should play the lead guitar/And Pat should play the drums(きっとリード・ギターは僕が弾くべきなんだ/そしてドラムはやっぱりパットじゃないと)」というくだりがあるけれど、R&Bの導入やメインストリーム・ポップ、型通りのポップ・パンクといった近年のリヴァースが繰り広げた様々な挑戦──「ソングライターとして視野を広げる」という意欲に突き動かされていたのだろうが──を経て、バンドが元のさやに戻ったとでもいうか。リヴァース自身「今回はグレイトなアルバムを作るんだ、と決意して臨んだ」とその意気込みを電話取材で語ってくれたが(このインタヴュー本編は11月1日発売のロッキング・オンに掲載です:お楽しみに)、というわけで、まずは新作を全曲解説! そしてプロモ・ヴィデオを中心に、ウィーザーのキャリアを振り返る代表曲10曲をセレクトしてみました。お楽しみあれ。
(文=坂本麻里子)
新作『エヴリシング・ウィル・ビー・オールライト・イン・ジ・エンド』全曲徹底解説!
01
エイント・ゴット・ノーバディAin’t Got Nobody
「またこわい夢を見たの」という女児に対し、「お眠りなさい、ハニー。何もかもおしまいには大丈夫だから(Everything will be all right in the end)」と言い含める母親(?)の声。このミステリアスなサンプリングに気をとられているうちにザクザク刻むヘヴィ・ギターが背後から接近、返す刀でアンセミックなサビが全開と、意気の高さが伝わるオープニングだ。アウトロのコーラスが一瞬ルー・リードの〝ワイルドサイドを歩け〟似なのは、昨年世を去った名ソングライターへのトリビュート?
02
バック・トゥ・ザ・シャックBack to the Shack
本作からのリード曲として先行公開されたトラック。4つ打ちビート×ラップ・ロック調のパワフルな歌唱といい、「94年みたいにロックするんだ」のフレーズやタイトルのシャック(小屋)から想起されるバンド初期のリハーサル・スペース等々自己言及色の強いファン泣かせな歌詞といい、今後ライヴでの大合唱曲化は確定だろう。
03
ユーロジー・フォー・ア・ロック・バンドEulogy For a Rock Band
過去のロック・バンドに最敬礼を捧げる曲──というわけでイントロはキッス、シン・リジィあたりを思わせるハード・ロックながら、ハーモニーに満ちたメロディはむしろジェフ・リン型のポップへ昇華していく。シンセ使いににじむカーズ味はリック・オケイセックへのウィンクとも、あるいは共作者であるオズマのダニエル・ブラメルの仕業とも言えそう。
50年代アメリカン・ポップを想起させるノスタルジックな味わい──曲タイトルももろに「それ」っぽい──という、リヴァースの昔ながらの得意技が光るトラック。
05
アイヴ・ハッド・イット・アップ・トゥ・ヒアI’ve Had It Up to Here
ファルセットを交えたヴォーカルにファンク調なリフ&グルーヴ(ミドルではレゲエ・ビートも一瞬顔を出す)と、やたら派手で拡張型のソングライティング/アレンジが面白いトラック──と思いきや、共作者にジャスティン・ホーキンス(ザ・ダークネス)がクレジットされていて大いに納得。
06
ザ・ブリティッシュ・アー・カミングThe British Are Coming
M1と同様、思わせぶりなヴォイス・サンプル(演説の一部?)から始まる曲。盤石にウィーザー味のミッド・テンポなメロディック・ロックで、コーラス・ワークやサビ・メロにクラシック音楽からの影響を強く感じる。
ネット・メディアで報じられていた「リック・オケイセックが難色を示した」と言われる口笛のイントロというのは、この曲のことらしい。しかし♪フッ・フッ・フーとすぐに真似たくなるノリ良く伝染性の高いこのリフからエレキが洪水するコーラスに持ち込むカタルシスはウィーザーならでは。
西海岸発のインディ・ポッパー:ベスト・コーストのベサニー・コセンティーノが共作およびデュエットで参加。M4でも鳴っていたオールド・スクールなアメリカン・ポップス(ドゥワップや60年代のガール・グループ、サーフ・ロック)を志向する彼女との相性はばっちりで、男女の「掛け合い」ソングを踏襲した構成はもちろんよく練ったハーモニー・コーラスも素敵。イントロのドラムに〝僕は待ち人〟を思わせる短い箇所があり、アルバム制作中のリヴァースの意識下にルー・リードがいたのかもしれない。
アコギ+ハーモニカで始まるヴァース、シャッフルするグルーヴ、コーラス・メロのカントリーな味……と新鮮な展開の続くトラックで、攻撃的なハード・ロックに豹変するブリッジはアクロバティックとすら。しかし強引さ・奇をてらったところを感じさせないのはリヴァースのアレンジ力の賜物だろう。
10
フーリッシュ・ファーザーFoolish Father
アウトロにアルバム・タイトルの♪Everything will be all right/In the endが再びコーラスされ、ある意味1曲目へとサイクルが戻る=作品本編はここでいったん幕を引くと言っていいだろう。アルバム中もっともダークなグランジ・トーンの曲ながら、「愚かな父を許してあげて」のコーラスで和解から希望へ=「めでたし、めでたし」のポジなムードへとリフトアップしていく。
ザ・フューチャースコープ・トリロジーThe Futurescope Trilogy
11
ザ・ウェイスト・ランドThe Waste Land
13
リターン・トゥ・イサカReturn to Ithaca
アンコールとも言えるラスト3曲は組曲形式。Ⅰ(“ザ・ウェイスト・ランド”)はパットのダイナマイトなドラミングがド頭から炸裂、リヴァースの華麗かつ壮大なリード・ギターが泣きまくり……と、ハード・ロック小僧にはたまらないインスト。Ⅱ(“アノニマス”)
はジョン・レノン的なジェントルなピアノ・リフにギター/ドラム/クワイア等を重ねながらズンズン加速していくドラマチックな構成で、ミュージカル・ナンバーの趣き。Ⅲ(“リターン・トゥ・イサカ”)は再びインストで、キャッチーなリフでフィナーレへと猛ダッシュしていく。アルバムという1枚の世界の中に含まれたもうひとつの小宇宙、いわば耳で聴く「ミニ・ロック・オペラ」かもしれない(とはいえ、そのストーリーや文脈は「未来」というキー・ワード以外は不明なんだけど)。
Weezer ウィーザー
リヴァース・クオモ(Vo・G)、スコット・シュライナー(B・Vo)、パトリック・ウィルソン(Ds)、ブライアン・ベル(G・Vo)の4人組。1992年、リヴァースを中心にLAで結成され、翌年ゲフィン・レコーズと契約を結ぶ。94年にリリースされたデビュー作『ウィーザー』はアメリカだけで300万枚を突破する大ヒットを記録。96年の2ndアルバム『ピンカートン』発表後、一時活動休止状態を経て00年に再始動。翌年発表された3rdアルバム『ザ・グリーン・アルバム』は全米4位に輝いた。以降、作品のリリースを続けながら、日本においても数々のフェス出演をはじめ、自らの主催イベント「ウィーザー・フェスティヴァル」も開催。デビュー20周年を迎える今年、通算9作目となるオリジナル・アルバム『エヴリシング・ウィル・ビー・オールライト・イン・ジ・エンド』を発表する。
『Everything Will Be Alright In The End』
エヴリシング・ウィル・ビー・オールライト・イン・ジ・エンド
2014年10月1日発売
UICU-1258 | ¥2,450+税
01. エイント・ゴット・ノーバディ/ Ain’t Got Nobody
02. バック・トゥ・ザ・シャック/ Back to the Shack
03. ユーロジー・フォー・ア・ロック・バンド/ Eulogy For a Rock Band
04. ロンリー・ガール/ Lonely Girl
05. アイヴ・ハッド・イット・アップ・トゥ・ヒア/ I’ve Had It Up to Here
06. ザ・ブリティッシュ・アー・カミング/ The British Are Coming
07. ダ・ヴィンチ/ Da Vinci
08. ゴー・アウェイ/ Go Away
09. クレオパトラ/ Cleopatra
10. フーリッシュ・ファーザー/ Foolish Father
ザ・フューチャースコープ・トリロジー/ The Futurescope Trilogy
11. ザ・ウェイスト・ランド/ The Waste Land
12. アノニマス/ Anonymous
13. リターン・トゥ・イサカ/ Return to Ithaca
デビュー20周年、WEEZERのキャリアを彩るこの10曲
1. Buddy Holy
記念すべきデビュー曲=〝アンダン〟のポスト・グランジ感も捨てがたいが、青盤を表舞台に押し上げたヒットと言えばやはりこれ。有名な米シットコム『Happy Days』を引用したスパイク・ジョーンズが監督の本ビデオは、この時期のウィーザーがジェネレーションXのノスタルジア傾向+アイロニー(ニルヴァーナも〝イン・ブルーム〟PVで同様のことをやっている)にどっぷり浸かっていたことを感じさせる。
2. Say It Ain't So
子供時代に実父が家庭を去り、義父と暮らす経験を持つリヴァースのリアルなトラウマを文字通り「叩き付ける」名曲。捨て曲無しの青盤ながら、エモーショナルなクライマックスはここにある。いつ聴いても涙がにじむ。
3. Tired of Sex
セックス=肉欲ではなくラヴ=愛を求める……という、清教徒的な願いを描く曲。しかし除菌されたおとぎ話の「愛」を描くのではなく、タイトル/歌詞も含めて露骨に、己のみっともない恥部を晒してまでセックスの不毛を明らかにする必死な「咆哮」があるからこそこの曲は心にヒットする。ゆえにリリース当時は(本国アメリカでは)冷遇された『ピンカートン』だが、18年経った今、多くの人間がリヴァースのようにウェブ上で「真情吐露」している気がするのだが?
4. El Scorcho
収録アルバムのタイトル元ネタであるプッチーニの歌劇『蝶々夫人』モチーフが登場し、名アンセム“アクロス・ザ・シー”にも響く「洗練の象徴」としての日本への憧れが浮かぶ曲。そのテーマも興味深いが、自嘲気味にユーモラスなヴァースを経てコーラス(2:03)で爆発する、ウルトラC級な曲構成〜ブレイクは秀逸の一言に尽きる。
5. Hash Pipe
ファーストに続き、再びリック・オケイセックをプロデュースに迎えたサード。その点からも一種のカムバック性〜「ファンへの呼びかけ」というニュアンスは伝わるが、同時に求められる「00年代のウィーザー」を記したのがもろにハード・ロック志向でタフなこのロッキン曲。
6. Island In The Sun
アコースティック調で始まりつつフックも満載、そしてスケールの大きいコーラスへ……と、淀みないソングライティングが美しいポップ・チューン。このビデオ──無条件にキュートな動物赤ちゃんの映像を使うのはあざといっちゃあざといが──は、ウィーザーの「おたくロッカー」イメージを規定したとも言えるスパイク・ジョーンズ作。そこもまた、グリーン・アルバムに流れる青盤への憧憬を感じさせる。
7. Keep Fishin'
ファンとの意見交換、デモの事前公開、自主リーク、レーベルからの圧力……とリリース時にすったもんだの多かった『マラドロワ』。これ以降も続くウィーザーの「ファンは神様」ぶりを視覚化したビデオとして“ドープ・ノーズ”もあるが、有名な子供番組『マペット・ショー』のスター達との共演が生む本クリップの陽気なチャームとFUNは「問題作」の重さを軽減してくれた。
8. Perfect Situation
御大リック・ルービンのプロデュースで話題になった『メイク・ビリーヴ』──とはいえ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズやフー・ファイターズといった「オルタナ版スタジアム・ロック」を目指したごとき音作りはパーソナルなタッチに欠け気味でどうもしっくりこない。が、このトラックは70年代のロッカ・バラードを思わせるてらいのないメロディ性と大らかな一体感とのバランスが抜群。
9. Pork and Beans
軽妙にすっとぼけた冒頭のリフはこの時期のリヴァースの「モダン・ポップなフック」への興味を感じさせるものの、“バディ・ホリー”型のカッティング&サビへのなだれこみ方には古株ファンをほっとさせる王道ウィーザー味がある。
10. Hang On
ウィーザーにしては実は珍しい、直球にパワー・ポップなトラック(1枚目の頃のファウンテインズ・オブ・ウェインが作ってもおかしくない曲だろう)。ベタな“Hang on, hang on”のコーラスも、逆にセンチメンタルな音作りと泣きのあるメロディにマッチしていてナイス。
提供:ユニバーサル ミュージック
企画・制作:RO69編集部