メジャーデビューをかけて昨年11月にスタートしたガチのヒッチハイク旅「47都道府県ストリートライブTOUR」のミッションを見事クリアした電波少女。超絶ネガティブで痛快に捻くれた言葉で綴られる日本語ラップのリリックと、ヒップホップの枠にとらわれないキャッチーなメロディで、着実にファンを増やしてきた彼らだが、ついに、フルアルバム『HEALTH』でメジャーデビューする。
さすが電波少女。メジャー作だからと言って、そのリリックがマイルドに落ち着くわけはなかった。より鋭い言葉で、このどうしようもない日常への苛立ちや諦めが小気味いいフロウに乗って放たれていく。インディーズ時代の『BIOS』『WHO』に続き、今回もまた多くのフィーチャリングが実現、三部作の完結作という意味合いもあるという。この重要作についてじっくりと話を訊いてきた。
インタビュー=杉浦美恵
最終的には自分として納得いくものができた(ハシシ)
──メジャーデビューアルバム『HEALTH』は、電波少女の作品の中でも、よりネガティブなエネルギーがポップに昇華されていて、痛快な作品になったと思います。
ハシシ(MC) バタバタ作った部分もあったんですけど、最終的にバランスも取れて、自分的には納得のいくアルバムになりました。
nicecream(パフォーマンス&ボタンを押す係) 僕も今まで聴いた中で一番いいなと思うアルバムでした。ポップだけど明るすぎないし、歌詞とかフロウも、良さがすごく出ているなと──すげえ上から目線ですけど(笑)。
──ナイスさんは、曲ができあがるごとに聴いてったっていう感じですか?
nicecream いえ、基本は全部できあがってから聴きます(笑)。ライブでやる曲とかは先に送ってもらう感じで、必要最低限のものはもらうんですけど、後は全部できてからですね。
── 一番最初のリスナー的な感覚ですね。ハシシさんに曲の感想とか伝えたり?
nicecream 感想はあんまり……直接伝えたりはしないんですけど、今回は、聴いて即Twitterに「めちゃめちゃよかった」みたいなことは書きました。
──Twitterなんですね(笑)。
nicecream 直接言うのはやっぱり恥ずかしいので。照れくさいし。
──ひとつひとつの楽曲はネガティブなんだけど、最終的になぜか前向きな気持ちになるようなアルバムです。制作時のハシシさんはどんな感情だったんですか?
ハシシ 先にリリースしたシングル曲以外はほとんどできてない状態だったので、締め切り間際に、正直ちょっと間に合わないかなって思うくらいのタイム感で──まあ自業自得なんですけど(笑)。なんかもう“INTRO”とか“OUTRO”とか作ってる時は何もよくわかってない状態で。自分的に“INTRO”、“OUTRO”はアルバムを通して聴く上で、大事なものだっていうのがすごいあるんです。インストだけにしたくないっていうか、言葉もちゃんと込めたいなというのがあって。今回も最終的には自分として納得いくものができたんですけど、これもう、ラスト2日とかでリリック書いて録音しないと間に合わないっていう状況だったんですよ。徹夜して作ったから、あんまり頭もまわってない状態でリリックも書いてたし。でも後日見返したら、「あ、ちゃんと頭まわってたな」って思いました。
──どうしてそんなギリギリまで追い込まれてしまったんですか?
ハシシ いやもう、ほんと自業自得っす(笑)。今回、っていうかまあ毎回なんですけど、アルバムのコンセプトを決めるのに時間がかかってしまって。インディーズ時代のアルバム『BIOS』と『WHO』、それと今作とで三部作にしたいという目論見もあったし。意味はまったくないんですけど、アルバムタイトルはハ行で始まるものにしてきてるから、その縛りとかもあって。
──なるほど。その縛りを諦めるわけにはいかなかったんですね。
ハシシ それに、もうバレてるんで言うんですけど、『HEALTH』はすべての曲のタイトルに、人間の体のパーツが入ってるんですよ。
──ああそうか。“NO NAME.”は脳だし、“ME”は目だし。これ、大変だったんじゃないですか?
ハシシ 『BIOS』が生き物の名前縛りで、アルバムとしては生命みたいなテーマで作って、次の『WHO』は全曲フィーチャリングで人の名前が入るっていうコンセプトでやって、それで今回はどうしよっかなって悩んで、すでに“ME”というシングルを作ることが決まってたし、“SKIT2”っていう曲もあって、これに共通するものって何だろうってずーっと考えてたんです。そしたら「体の名前が入ってるな」って気づいて。もう、神のお告げかと(笑)。
──着地点がちゃんと用意されていたんですね(笑)。
ハシシ 選ばれし人間だと思いました(笑)。
アルバムの内容はすごく不健康だけど、それを健康にもっていきたい(ハシシ)
──アルバム制作と同時に、先行のデジタルシングルの“ME”、“FOOTPRINTZ”、“NO NAME.”も制作したわけですよね。“ME”は自分の恋愛に向き合った曲だし、“FOOTPRINTZ”は珍しくポジティブな楽曲で。で、“NO NAME.”が一番電波少女らしいっていうか、ネガティブさをポップに昇華するという意味ではすごくよくできていて。この曲、けっこう時間がかかったんですよね?
ハシシ めちゃくちゃ苦戦しました。DYES IWASAKIっていうトラックメイカーと方向性を決めてタタキを送ってもらって、それをふたりで詰めてトラックが完成して。自分的にはいいなと思っていたんですけど1回ボツにしたんですよ、ギリギリの段階で。これじゃちょっとリード曲としてはダメだなっていうのが自分の中であって。で、DYES IWASAKIが200曲くらいストックがあるって言ってたから、それを全部送ってもらって、全部聴いて──。その中に “NO NAME.”に近いのも入ってたんですよ。いい意味でそのトラックだけ浮いてて、「これだな」って。
──アルバムのタイトルを『HEALTH』にしたのは、曲名に体のパーツの名前を入れると決めた後ですか?
ハシシ そうですね。アルバムの内容的にはすごく不健康なんですけど、それを健康にもっていきたいなっていう願いを込めたのと、日本で言う『ヘルス』っていう響きは、ちょっとエッジが効いてるなと思って。でも、タイトルのハ行縛りとか曲名の縛りとかは、もう疲れるし、やりたいことがけっこう制限されるので、ここで一旦終わらせようと思ってます(笑)。
──ナイスさんは、今作のコンセプトも、後から知った感じですか?
nicecream コンセプトは前から聴いてました。でも、アルバムのタイトルとかは公式に告知されてから知りました。「あ、『HEALTH』なんだ」みたいな。
──途中経過が気になってハシシさんに訊きにいったりとかはしないんですか?
nicecream たま〜に訊きにいくこともあるんですけどね。でもほとんどないです。
──ハシシさんもナイスさんに伝えたりとか、しないんですね。
ハシシ いや、忙しいんで(笑)。伝えてる暇がないんですよね。だから「楽しみにしててね」みたいな?(笑)。