絶望的な歌詞なんだけど、これもこれでひとつの元気になればいいのかな
──各楽曲についても訊きたいんですけど、今回もまたフィーチャリングが多彩で、いろんな方との共演が目を引きます。まず、“ 21世紀難民 feat. れをる(from REOL)”。これ、たぶんこの作品の中で一番不穏な楽曲ですよね。
ハシシ そうですね。歌ってる内容でいうと一番不毛というか、もやっとしたまま終わるというか。
──れをるさんとの共演のきっかけは?
ハシシ 昔から親交があって、表には出てないけど電波のPVとか、わりと何作品も手伝ってくれてるんですよね。それでちょっと久々に連絡を取ることがあって、まだその時は告知されてなかったんだけど、REOLが解散するっていう話を聞いて、自分も制作に行き詰まってたんで、ちょっと息抜きで人と話したいなと思って、久しぶりに会ったんですよ。お互いの活動状況とかを話してたらそういう状況だし、落ち込んでるってわけでもないけど、まあ明るくはないじゃないですか。それで、そういえば今まで作品でちゃんと絡んだことないなと思って。それで、れをるはシンガーだから、なんというか、きれいな曲を作ったら思うツボっていうか、リスナーの想定内のものになっちゃうなと思ったから、あえてゴリゴリにラップしてもらおうと。なので、“21世紀難民~”でやってもらいました。
──低めのテンションのネガティブ曲なんですけど、妙にリリックが耳に残るんですよね。
ハシシ そうですね。ちょっとドスが効いてるんですけど、やっぱり声はかわいいというか。なんか、小学生が怒ってるみたいなかわいさがありますよね。
──そして今回も、NIHA-CさんとJinmenusagiさんが参加されていて、このおふたりについては、もう電波少女にとっての盟友というか、なくてはならない存在だと思いますけど。だから、“花火 feat. NIHA-C”や“MONE¥CLIP feat. Jinmenusagi”は、ハシシさんが心持ち明るくなってる気もするんですけど、どうですか、ご自身では。
ハシシ なんか、合わせてくれてるのかもわかんないですけど、わりとメロディアスになるんですよ、電波の曲になるとふたりとも。別にもっとラップしてくれてもいいのになと思いながらも、信頼して全然お任せしてるので、そういうのがであがってく中で、じゃあ、自分はもうちょっとラップ要素を強めようかなみたいなのがあって、元気に聞こえてるのかもしれないです。
──そのおふたりが参加した“A BONE feat. Jinmenusagi&NIHA-C”なんかは、今回の中では珍しく、究極にポジティブに響きました。電波少女の曲で「ガンバレ」っていう言葉が出てきたのも驚きだったんですよね。
ハシシ NIHA-C君とうさぎ君(Jinmenusagi)と曲作るって決めて、このトラックを完成させた時に、なんかすごいエモい気持ちになってたんですよ。うさぎ君とその前に、“MONE¥CLIP”を作っていて、作り終わった後にメシ食ってて、なんかけっこう、感傷に浸るってわけじゃないけど、「なんだかんだ言ってもう9年目っすよねえ、ネットで知り合って」とか話してて。NIHA-C君とも出会って5年とかで、ほかにもたくさんネットで友達できたけど、こうやってつるむ人って少なくなってきたなあとか思って。それで、自然と自分たちを応援するような曲になっていったのと、あとは、聴く人は例えば「ガンバレ」っていう言葉で、励まされたと感じるんじゃないかなあと。
──「ガンバレ」は自分に向けた言葉なんだけど、それがリスナーに向けての言葉だと捉えられてもいいかな、っていう?
ハシシ 俺は、THE BLUE HEARTSを26〜27歳とかで、ようやくまともに聴いたんですよ。それまでは聴いてても今いちピンとこなかったんだけど。でも、その年齢になって聴いた時にまったく今までと聴こえ方が違くて、こんな大きい声で「ガンバレ!」って言える曲ってすげえなって思ったんですよ。けど、俺には言えないなって思ってたんです。自分の性格とかキャラとか含め。だけど、凹んでる時に言われる「ガンバレ」っていう言葉は、けっこうキツイじゃないですか。それもあって、ちょっとプレッシャーかけたいなって。なので、“A BONE~”はポジティブなんだけど、一番締めの部分とかは、すげえスパルタなこと言ってるし。
──いま、THE BLUE HEARTSの名前が出ましたけど、今回“未来は誰かの手の中”っていう曲もありますよね。決して明るいだけの未来じゃなくて、くすぶってる自分たちの状況を会話形式で表現した歌詞が印象的な歌で。これは、“未来は僕等の手の中”へのアンサーソング?
ハシシ アンチテーゼ的な意味合いはまったくないんです。THE BLUE HEARTSのあの曲を聴くとすごい元気をもらえるんですよ。ふだん聴く曲って、俺はどちらかというとポジティブな曲のほうが多くて。ロジックがわかってる分ネガティブな曲は聴きたくないっていう同族嫌悪を抱いてしまうから。時代もあるけど、あの頃の曲ってあの歌詞をそのまま受け取って、よし頑張ろうって思える人たちが多かったと思います。でも今はそうではないのかなとも思うんですよ。
──確かに。
ハシシ 揚げ足を取るような人や悲観的な人のほうが多いのかなって、そういう目線での「わかるわ」っていう共感って、実はけっこう元気になる要素だと思ってるんですよね。だから、めちゃくちゃネガティブだし絶望的な歌詞なんですけど、これもこれでひとつの元気になればいいのかなみたいな感じではあります。
こっちが意味をつけなくても深読みしてくれるじゃないですか、それっぽい言葉で書いていれば(ハシシ)
──今作には“クビナワ feat. ぼくのりりっくのぼうよみ&ササノマリイ”という曲も収録されてます。この共演はどういう経緯で実現したんですか?
ハシシ もともとは、ぼくりりとふたりで作ろうと思ってた曲なんですけど、お互い声が特徴的で──ふたりともどちらかというと高めですよね。普段やってるジャンルも違うから、どうまとめようかと思った時に、あ、もう無理だな、もうひとつ声が必要だなって思って。そこを中和してくれるいい声の人がほしいと思った時に、そういえばぼくりりはササノマリイ君とやってたなあって思い出して。ササノマリイ君とは、昔一度コンタクトを取ったことがあったんですよ。まだササノマリイ君がボカロPをやってた時代ですね。ねこぼーろっていう名義で作った“戯言スピーカー”っていうネットラップの中での人気曲があって、みんなによくリミックスされたりしてたけど、俺も当時やってて。その時にコンタクトをいただいて、「ありがとうございます、いつか一緒にやりましょう」みたいなことは言ってたんです。で、ぼくりりとササノマリイ君が、最近一緒にやってたのを知ってたので、あ、いいかもなって。
──この曲は、ちょっと電波少女の中では異色ですよね。歌詞の雰囲気もちょっと文学的というか。
ハシシ けっこう抽象的な。一番意味がないタイプの歌詞ですね。めっちゃ簡単なんですよ、こういうの(笑)。1個キーワードをぽんと出して、その言葉をどんだけ連想させるような言い方で書けるか勝負、みたいな。なんか、こっちが意味をつけなくても深読みしてくれるじゃないですか、それっぽい言葉で書いていれば。
──そういう言葉の連想を面白がって作った曲?
ハシシ 皮肉ってる部分のほうが大きいですね。そういうのが好きな人が俺、大っ嫌いで。けど、これは曲としてちゃんと力を入れて作ったから、どういうリアクションがくるかなあと思いつつ。
──中身がありそうでなさそうな言葉を、どう受け取るか、みたいな?
ハシシ それを深いと取る人たちがあまり好きではないんですよね。すごく、語弊しかないんですけど、わかりやすいものを作るのって一番大変だし、わかりづらいものを作るのは意外と簡単だなって思うんですよ。当然、本格的にやってる人たちからしたら、こんな歌詞はメッキだってバレるんだと思うんですけど、中途半端に通ぶってる人たちは騙せんじゃないかなって思って、ふざけましたね(笑)。
──なるほど。でも私は好きですよ、この歌詞。
ハシシ あ、もちろん自分も気に入ってます。意味なく書いたけど、やってくうちにどんどん、これ意味通ってんじゃんって思って。意味なく書いたつもりなのに、ちゃんと整合性が取れてるんですよね。
メジャーデビューっていう、少しは親が安心できる理由ができたんでよかった(ハシシ)
──今回の作品でまた、初めて電波少女を知る人もいっぱい出てくると思いますけど、改めてヒップホップというカテゴリーについては、どう考えていますか?
ハシシ これをヒップホップじゃないっていう人も当然いると思うし、逆にポップス好きな人とかでも、このアルバムは聴きやすくない、気持ち悪いって思う子もいるかもしれない。でも、俺の中ではすごく聴きやすいしヒップホップな作品。これだけいろいろスタイルとか、アーティストのキャラクターとかが多様化している中では、もう、そういうカテゴリーの中にいる人からしたら放っておくしかない存在なんだろうなと思ってます。年齢も年齢だし、好きなことをとことんやろうって作れたので、楽しいアルバムになったと思います。
──そういえば、ハシシさんもいつの間にか30歳ですもんね。
ハシシ やべえなっていうのはありますね(笑)。30ってもう、ライブハウスとか行くと、一番年上とかになってる時もあるし……そうっすね、わりと急いで頑張らないとなって感じです。
──ナイスさんも今29歳で。
nicecream 1月で30歳になります。いやあ、何も変わらないですけどね。でも、30を迎えるところでメジャーデビューができてよかったなっていう感じです。
ハシシ 環境はめちゃくちゃ変わってますけどね。想像してた輝かしい未来ってわけでもないし、全然満足もしてないけど、想像してた絶望ともまた違ったんで。
──想像してた絶望っていうのは?
ハシシ いや、路上で寝てたりとか(笑)。全然ありえたなと思いますよ、自分の人生的には。仕事もあまり続かなかったりして、逆に大スターになってるんじゃないかとか、いろいろ考えてたけど、そのどちらでもなくて。でもこの年でも続けられてて、メジャーデビューっていう、少しは親が安心できる理由ができたんでよかったです。