TVアニメ『パズドラ』のエンディング曲として書き下ろされた、そして「思いっきり“アルプス一万尺”を使う」というキャッチーな反則がぶちこまれた表題曲“▶START”も、「王道魔法少女になり隊曲、ただしgariが一切叫ばずラップする」曲である“変幻自在のスパーキングZ”も、その他の2曲も含めて、新しい実験が詰め込まれた魔法少女になり隊のニューシングル『▶START』。「新しくおもしろく楽しい実験」に挑むクリエイター魂が、音源だけでなくCM(おもしろい!)やMV(おもしろい!)まで含めて横溢しているのが、現在の魔法少女になり隊である。その現在について、さらに未来について、あとバンドとしての、クリエイターとしてのポリシーなどについて、4人に訊いた。
インタビュー:兵庫慎司
「平日の夕方放送のアニメで、シャウトありなんだ?」(gari)
──“▶START”の、“アルプス一万尺”を使うというアイディアは、どういうところから?
ウイ・ビトン(G) 最初は『パズドラ』のタイアップの話が来てから、「じゃあどういう曲を作ろうか?」っていう話をしていて。みんなが歌いやすいメロディがいいな、簡単なメロディでキャッチーなのがいいな、っていうのが、最初頭にあったんですけど。それで、誰でも知ってる昔の曲のメロディを引用してみるというアイディアはどうだろうか、っていう提案をスタッフからいただいて。「じゃあやってみましょう」って作って、全部で3曲提出してみたら、その引用した曲が気に入っていただけたらしくて。それが『パズドラ』の曲になったんですよね。
火寺バジル(Vo) でもこの曲、歌詞はめちゃくちゃ苦戦して。『パズドラ』だし、私たちのカラーを出しつつも、子供たちにも、大人にもわかってもらえるものにしたいなと思って。全部のバランスを取るのが難しくて、めちゃくちゃ悩みましたね。
ウイ そうだったんだねえ。
gari(VJ・Vo)・明治(G) (笑)。
火寺 しかも歌詞を書かなきゃいけない時に、私、インフルエンザになっちゃって。
ウイ ああ、そうだったっけ?
──どんだけ他人事なんですか、ウイさん(笑)。
火寺 ずっと寝込んでたんですけど、「ああ、でもやらなきゃ」って。それで、意識が朦朧としながら、がんばって書いた歌詞ではあるんです。
ウイ でも、結果、すごくわかりやすいし、メロディとのはまり方もすごくいい歌詞だなあと思って。
火寺 行き詰まりすぎて、いろんな方向で何パターンも書いたりしたんですけど。でも、「もっとストレートな感じがいいんじゃない?」って言われて……いろいろ考えすぎると良くないかなと思って、思いついたものを全部ストレートに詰め込んだ結果、こうなりました。
gari 最初は、子供向けのアニメだからとか、そういうマインドがすごくあって、メンバー内に。
火寺 初めてのタイアップだし。
gari それで、子供向けに作ろうと思って、最初、僕の歌うとこ、シャウトなしで曲を出したんですよ。そしたらアニメサイドに「あれ? シャウトは入れないんですか?」と言われて、「あ、入れていいんですか?」みたいな(笑)。「平日の夕方放送のアニメで、シャウトありなんだ?」っていうね。
ウイ 唯一のリクエストがそれだったんですよ。
火寺 だから、私たちのカラーをちゃんとわかった上で選んでくれたんだな、って。
──あと、あのCMのアニメ、最高ですね。(このシングルのリリースに先駆けて、「80年代テレビアニメの次週予告」風のCM『魔法少女になり隊 SPECIAL STORY SPOT-外伝-』全10回が公開された)。
火寺 あ、CMのやつですか?
ウイ あれ、ヤバいですよね。
──たぶん外の人のアイディアですよね。だってあんな絶妙な80年代アニメのテイスト、メンバーの歳だと知らないでしょ。
gari そのとおりでございます(笑)。コラボさせていただいたクリエイターさんのアイディアで。でもあのタイアップの夕方のアニメ枠、ちっちゃい子が観てるじゃないですか。絶対わからないじゃないですか。ああいうネタなんだっていう概念すらわからないレベルで。
明治 「なんか変なの流れてる」っていう。
gari そこにぶちこむっていうのが、おもしろすぎて。
明治 自分が小さい頃に観ていたアニメにあった遊び心とか、当時はわかんなかったんですけど、今思い出すと「あれってこういうことだったのか!」みたいなことがよくあるので。今リアルタイムで観てる子供たちにとって、そういうものになったらおもしろいな、と思って。
大人になっても子供の心を失わないでやり続ける、っていうことだと思う(火寺)
火寺 あと、MVもいいんですよ。いつも演奏シーンがメインなんですけど、今回、子供たちと触れ合うっていう。
明治 新たな試みを。
gari 保育園でロケをしたんです。園児たちにお客さんになってもらうライブをやって、その中で園児たちと触れ合うという。めちゃくちゃだったね、園児(笑)。
ウイ やんちゃで、超元気な子たちで。
gari 一番うれしかったのが……演奏シーン、何回も撮るじゃないですか、MVって。そしたら園児たちが「なんで『パズドラ』の曲、何回もやるのー?」って(笑)。ちゃんと『パズドラ』を観てて、それが魔法少女になり隊ってところまで結びつかなくても、曲を認知してくれてるんだ、と思って。
ウイ シャウトも抵抗なかったですよ、園児たちは(笑)。
火寺 男の子が「『パズドラ』いつも観てるよ」って言ってくれたりするんですよ。
明治 同じ子っぽいなあ……それ、私も言われた(笑)。
ウイ みんな子役とかじゃなくて、本当の園児なんですよ。
火寺 でもほんと、最近ちょこちょこちびっ子がライブに来てくれたりとか……なんか、日本の北のほうに行くと、子供が増えるんですよ。家族連れとか。
明治 東北とかね。
火寺 そういう子たちからお手紙とか似顔絵とかもらったりするんですけど。そういうお客さんが、この曲をきっかけにもっと増えるんじゃないかな、っていうのは、ちょっと楽しみですね。
gari 『パズドラ』の曲だから、子供向けの曲を作ろうっていうふうに考えてたところから、MVで「子供と一緒に作ろう」っていう発想の転換が起きて、それで今回みたいなのを撮りたいなと思ったんですね。
火寺 個人的には、運動会とかで使ってくれたらうれしいなあ、って。
gari そういうアイディアがいっぱいあったので、「じゃあどういうMVにしようか」っていろいろ考えていて、「あっ!」って思い出したのが……YouTubeで「DJ 幼稚園」で検索かけると、DJが幼稚園に行って普通にDJする動画があるんですよ、4つ打ちのハウスで。曲をかけてたら、園児たちが一斉に「ワーッ!」ってなり始めるっていう、それがすっごいおもしろかったのを思い出して。で、メンバーに「こういうビデオにしたいんだけど、どう?」っていう提案をしたら、みんな「それヤバそうだねえ」って賛成してくれて。
──子供にも届くとうれしい、という感覚は、前からありました?
火寺 あの、個人的に将来の夢として、魔法少女になり隊っていうバンドが大きくなっていった時に……バンド名の由来にもなるんですけど、私のことを見てちびっこが「あ、魔法少女の人だ」って言ったりする感じになればいいな、って。たぶん、人間なんだけど、ちょっと現実から離れてるものみたいなふうに、彼ら彼女らには見えてるじゃないですか。それで、バンドが大きくなって「あ、あの人、魔法少女の人だ」って言われた時に、初めて私は本物の魔法少女になれるんじゃないかな、っていうのもありつつ、バンド名にもそれが入っているので。自分たちも、それぞれがいろんなものを好きだったりとか、すごいワクワクを秘めている人たちの集まりなんで。メンバーもそうだし、レーベルのスタッフや事務所のスタッフもそうだと思うんですけど、大人になっても子供の時のワクワクをみんなでもう一回やろうぜ、っていうバンドだから。そういったところで、子供にはすごいキラキラした存在に見えるようでありたい、とは思いますね。そもそもバンド名からして、非現実なものになりたい、不可能なものになりたいっていうことを言ってるわけだから。大の大人が大真面目にそのテーマに向かっていて、それを大の大人が大真面目に応援するっていうことで、メジャーでやらせてもらってるし。私たちもいい大人だけど、童心に返って……自分たちで、「それは無理!」っていうことを作らない、大人になっても子供の心を失わないでやり続ける、っていうことだと思っていますね。