2013年11月に結成された大阪出身の3人組ボーカルユニット「ベリーグッドマン」が、5周年を記念したベストアルバム『BEST BEST BEST』をリリースする。2枚組に収録されている34曲は、彼らの足跡が実り多いものであったことを自ずと示している。3声のハーモニーを活かしながらレゲエやヒップホップのエッセンスをさり気なく反映している多彩なサウンドが、とても刺激的だ。様々なプロ野球選手が登場曲として使用するなど、アスリートに深く愛されている彼らの曲は、リスナーの心を鼓舞する圧倒的な力を帯びている。この音楽性の源にあるものとは何なのか? Rover(Vo・G・Trumpet)、MOCA(Vo・MC)、HiDEX(Vo・TrackMaker・Pianoforte・G・Percussion)と話をしながら、ベリーグッドマンのオリジナリティの背景を探った。
インタビュー=田中大
年齢を重ねながら感じるのは「やるべくしてやってるチームなのかな」ということです(Rover)
――5周年なんですね。
Rover はい。こうしてベストアルバムを出すというのは、僕たちの新しい出発だと思ってます。LIFE DISCとLOVE DISCという2枚組にするのは、レーベルのスタッフが考えたんですけど、しっくりハマりましたね。
――RoverさんとHiDEXさんは中学時代からの友だち同士ですけど、こうしてベストアルバムを出すようになったということに関して、独特の感慨があるんじゃないですか?
Rover そうですね。こんなことになるなんて予測してなかったですし、中学時代は水と油というか(笑)。そこまで仲良かったわけでもなかったですから。「どう思いますか?」って訊かれたら「不思議な感覚です」としか言いようがないんですけど、年齢を重ねながら感じるのは「やるべくしてやってるチームなのかな」ということです。
HiDEX 改めて考えると変な気持ちになりますね。吹奏楽部の定期演奏会を観に行った時に、たまたまおったのがRoverやったので。最初に喋った同級生がRoverなんですよ。「変なやつ」ってお互いに思ってたんでしょうけど(笑)。
Rover 巡り合わせって独特なものがありますね。MOCAと出会ったのは20代になってからですけど、それでも結構経ってますし。この3人が早い段階で出会えたのは、今になって思えば良かったです。
MOCA 僕は20歳くらいの頃からこのふたり(RoverとHiDEX)の存在は知ってました。先輩のDef Techのライブを観に行った時に、このふたりにCDを渡したことがあったので。
HiDEX そこからしばらく経ってから僕とRoverがMOCAの作品をプロデュースすることになったんですけど、「なんかこの曲聴いたことあるなあ」って思ったら、昔もらったデモのCDに入ってた曲なんです。4つのバージョンの“No rain, No rainbow”という曲が入ってて、「変なCD」って思ってたんですが(笑)。
MOCA そういう縁もあって、一時は「マネージャーやらへんか?」という話をもらったこともありました。やらなかったですけど(笑)。
――(笑)人との繋がり合いを大切にしている姿を、ベリーグッドマンの曲は様々な形で描いていますよね。
Rover そうですね。いろんな出会いがありましたから。メジャーリーグに行った前田健太投手との出会いも、すごく大きかったです。
――“1988”が、広島カープ時代の前田選手の登場曲になったんですよね?
Rover はい。たまたまのご縁だったんですけど、前田選手は僕らと同い年だったり、大阪出身同士だったりという、いろんな巡り合わせでした。一流アスリートの前田選手と当時の僕らは全く釣り合ってなかったですし、今でも釣り合ってないんですけど(笑)。でも、だからこそ音楽の持ってるとんでもない力を感じました。“1988”ってMVもなくて、インディーズ時代の曲やし、僕の実家でMOCAと遊びで作ったメロディなんですよ。それを使っていただけることになったので、「出会いとか繋がりを甘くみたらあかんな」と思うようになりました。
(野球を)引退する日の新聞のインタビューで、「次は野球で果たせなかった夢を音楽で果たしたいと思います」っていうかっこつけたことを言ってました(笑)(MOCA)
――ベリーグッドマンは、スポーツと縁が深いですよね。いろんな野球選手の登場曲になったり、スポーツ関連の番組で曲が流れたりしてきたじゃないですか。
Rover はい。振り返ってみるとびっくりします。「なんでこんなにアスリートの心に響くんですか?」ってよく訊かれるんですけど、僕たちもよくわかってないんです。
MOCA 「鼓舞される」とか「テンポ感とか声の温度感が丁度よくて、走ってる時に頭の中で流れてくる」っていうことを、よく言っていただいてますけど。
――MOCAさんは、学生時代に野球をやっていたんですよね?
MOCA はい。10年間野球をやって、18歳でやめました。すっかり忘れてたんですけど、引退する日の新聞のインタビューで、「次は野球で果たせなかった夢を音楽で果たしたいと思います」っていうかっこつけたことを言ってました(笑)。でも、ベリーグッドマンでメジャーデビューして、始球式をさせてもらったりもしましたからね。野球部のレギュラーが誰もプロのマウンドを踏めなかったのに、補欠だった僕がMAZDA Zoom-Zoom スタジアムに立ったんですから。それは嬉しいことであったと同時に、「あの時の悔しさが音楽となって、俺をここに立たせてくれたんだ」って思える体験でした。
――悔し涙がいつしか嬉し涙に変わるということを描いている“ライトスタンド”も、そういう姿と重なる曲ですね。
Rover はい。この3人もいろいろありましたから。MOCAは野球をやってて、HiDEXはドラム、僕はトランペットをやってたんですけど、それぞれに挫折があったんです。ベリーグッドマンについて「挫折の美学」とか「負けの美学」って言われたことがあるんですけど、その通りだなと思ってます。悔しい気持ちって復讐心に繋がるものでもありますけど、音楽は、そうはさせてくれないんですよ。悔しさは、できる限り美しく歌おうと思ってます。そういうのが凝縮されてるのが“ライトスタンド”とか“ライオン”ですね。
――気持ちを鼓舞してくれるものでありながらも、温かいトーンなのがみなさんの音楽の独特さだと常々感じているんですけど、その点に関してどう思います?
Rover そこはたしかに独得だなと僕も思いますね。この3人の声ということもあるんですかね? 最初の頃は、なかなかバランスが上手くいかなかったんですけど。
MOCA 事務所の社長に「お前ら、3人とも声が似てるよ」って言われましたからね。
HiDEX そんなことはないと思ってましたけど(笑)。
Rover 声質は全然違うと思うんですけどね。歌い方、節回しの気持ちがピタっと合ってるっていうことなんだと思ってます。