中身は今までで一番青臭いんですよ。ピュアで攻撃的で大人げない、そういう歌詞にしたいと思ったんです(KAT$UO)
――“ラスト・ピース”に関して言うと、近年のKAT$UOさんのボーカリストとしての魅力が表れたバラードになっていますね。
MASAYA 大人の時間です(笑)。僕、アルバムの曲を作っているうちに、バラードしか作れない期間に入ったことがあって(笑)。
KAT$UO MASAYA、病んでるのかと思った(笑)。
MASAYA バラードが4種類くらいできた中で、みんなに聴いてもらって、最終的にこれをやることになったんです。若い子が聴いたら、どう思うのかな? 「ダッセ!」ってなるのかな? それはそれで俺は嬉しいけど。僕らぐらいの年代が聴くと……。
LF う~わっ!って(笑)。
KAT$UO 冒頭のドラムから「やってんな!」って(笑)。
MASAYA (ボン・ジョヴィの)“オールウェイズ”ですからね(笑)。ちょっとリバーブ効いてる感じ(笑)。
――90年代のアメリカに、また時代も場所も飛ぶという(笑)。その次の“Of Music”の温かなアコースティック感も、チェリコの多才さを象徴していると思いました。
MASAYA これでLさん、バウロン叩いていますよね? このアルバムから本格的なバウロンを使ったんですよね?
LF そうですね。バウロンが曲の中心に本格的に来るのは、僕が加入してからは初めてです。この曲、ベースを入れずに、代わりにバウロンを入れたっていう。なかなかの挑戦でしたね(笑)。これをきっかけに、アコースティック形態のライブなどで違ったアレンジで聴かせられる曲も出てくるかもしれません。
MASAYA よく、海外のバンドのレコードで、ひとつの部屋でせーの!って鳴らして、合間に雑談も入っているような曲があるじゃないですか。そういえば、これもボン・ジョヴィの“ラヴ・フォー・セール”をメンバーに聴いてもらって、こんな感じでやりたいって伝えたんですよね。その曲は、もっとブルージーなんですけど。
――ボン・ジョヴィ、頻繁に出てきますね(笑)。私も世代的に染みついているところはありますけど、再評価すべきバンドなのかもしれませんね。
MASAYA ボン・ジョヴィは最高ですよ! 売れ方とかでうがった見方で見られがちですけど、まっとうなバンドですし、質も高いし、非の打ちどころがないと思います。
――“Of Music”は《音楽で世界を変えるように》という、とってもまっすぐな歌詞が出てきますね。
KAT$UO 20年前じゃ絶対に書かないような歌詞です(笑)。でも、僕は抵抗がないというか、これがストレートっていう感覚もないんです。
――SNSについて書かれた“Social Network Slave”もありますけど、まっすぐな歌詞や、攻撃的な歌詞が、今作には多いですよね。
KAT$UO 今回、自分の中で決めていたことがあって。『OLDFOX』――海千山千、したたかさ、ずる賢さって意味ですけど、チェリコが今まで身につけたものを表現していると謳いながらも、中身は今までで一番青臭いんですよ。ピュアで攻撃的で大人げない、そういう歌詞にしたいと思ったんです。“Social Network Slave”の歌詞も、別に言わなくてもいいようなことを、敢えて言っているんですよね。
――時代を反映している歌詞というところでは、“Ark Line”に関しても言えるのかなと思います。《教えておくれ偉い人よ 秤にかけられた命 その重さを》という。
KAT$UO そこまでポリティカルにならないように、とは全てにおいて気にしているんですけど、これは、やりきれない気持ちや不条理を込めたかったのと、去年、自分たちで興した会社の名前が「Ark Line」というところもあって。「ノアの箱舟の航路」みたいな意味合いで名付けたんです。それが果たして、正しい航路なのか間違った航路なのかは……正しいだけじゃないんだろうな、っていうのはノアの箱舟の物語にも感じますけど。箱舟に乗れなかった人たちは、なぜ乗れなかったの? その選別は果たして正解だったの?っていうところも踏まえつつ書きました。
これしかやっちゃいけないっていうのも今はないし、どんどんいろんなチャレンジができると思う(LF)
――こうやって様々な曲がありつつ、聴いていると酒が飲みたくなるというところは、昔も今も一貫していますよね。今まではビールが飲みたくなる曲が多かったけれど、今作の“ラスト・ピース”に出てくるのは《ハイボール》という違いはありますけどね(笑)。
KAT$UO まあ、結局飲むんかい!っていう(笑)。
――歴史を感じさせつつ、ラストの“Brigade”で、明るい未来も示唆して終わるところもいいと思いました。20年間いらっしゃるのは、今のメンバーではKAT$UOさんだけになりますか?
KAT$UO ですね。まあ、MASAYAは結成1年後とかに入っていますけど。メンバーが抜けたり入ったり、レーベルが変わったり、事務所がつぶれたり、紆余曲折あって、そのたびにリスタートを切ってきたので、あまり20年通して同じことをやり続けている感覚がないんですよ。振り返ったら20年が経っていたっていう。1年半前にドラムのTOSHIが加入したばかりだし……結成1年半なバンドの気持ちで(笑)、常にフレッシュです。しんどいこともありますけど、この状況をどうしていくか?の積み重ねでやってきましたから。
――チェリコを見ていると、アイリッシュパンクの可能性も感じるんですよね。アイリッシュパンクって、掘り下げる面白味があるだけではなく、様々な曲の土台になる、懐が深いジャンルなんだなって
MASAYA うん。日本で、もっとこういうバンドが増えればいいなって切に願っているんですけど、なかなか出てこないですね。海外を見渡すと、土着的な音楽を取り入れながら、且つロックやメタルをやっているバンドがいるんですけど。僕らも若手のつもりでやってきて、いつの間にか20年ですからね。みんな、これやれば受ける、みたいな安心感のなかだけでやっていて、挑戦が足りないように見えます。それが悔しいですね。
――LFさんは2014年加入ですが、ひとりのミュージシャンとして、チェリコにどんな可能性を感じていらっしゃいますか?
LF 僕が加入する以前、お客さんとして酒を飲みながら観ていた時のTHE CHERRY COKE$が、今作の曲をやってたら、違う方向に行ったなって……こういったらあれですけど、もうアイリッシュパンクじゃなくなっちゃったのかな?って感じたかもしれないと思うんです。でも、こんだけバラエティーに富んでいる今作をTHE CHERRY COKE$として出せるのは、僕が入る以前のメンバーのサウンドが土台にあるからなのかなって。離れていったメンバーの方々も、自分の音を持って出ていかずに、チェリコに残してくれたからこそ、この土台があって。そこに入ってきたメンバーが、新しい音を積み重ねて。そういった意味では、土台があるから安心して自分の可能性を出せるバンドなのかな、って思います。これしかやっちゃいけないっていうのも今はないし、どんどんいろんなチャレンジができると思う。今も楽しいし、これからも楽しみですね。