好奇心と衝動は音楽を作るうえでめちゃめちゃ大事なんですけど、少しタイミングを誤ると全部がもったいないことになっちゃう
――作った当時は、この曲が持ってる難しさには気づいていなかったの?「もう覚えてないですね。なぜこの曲を作ったのかもわからないですし」
――歌っても思い出さないの?
「でも、やっぱりいい曲やなっていうのと、すごい涙出てきたんですよね。歌詞の状況と今の自分の状況は一緒じゃないのに、すごい感動した自分がいたので。3年間も置いてるから、もはや客観的なんですよね。自分じゃない誰かが作ったような曲に思えて。客観的に聴いて、ここまで自分が感動する曲も、なかなかないなって。この曲を世の中に出したら、自分みたいな感覚になる人がいるんかなあって思うと、出したいなあっていう」
――だから、この3年間はやっぱり必要だったんじゃないかなあって思うよね。
「そうです! 楽曲ってやっぱり出るべくして出るタイミングがあるといいますか」
――そのタイミングってさ、誰がどうやって決めてるの? あいみょんが「今だ!」って感じなの?
「わたし結構、自分だけの意見やと音楽って作れないと思ってて。音楽を作るのは自分ですけど、それを音源化したりするまでは、自分ではできないと思ってるので、スタッフさんに訊くのがいちばんいいと思ってます。だって世の中のリアクションは、いちばんそこに近いじゃないですか。やっぱり第三者の意見がないと。自分の曲は自分からすれば、そりゃあ絶対好きじゃないですか。だけど、自己中なアルバムになるのも、曲になるのも、イヤっちゃイヤやなあというのはありますし」
――その話、すごくあいみょんらしいなと思うんですよ。なんでかっていうと、みんな、「今」の曲を作るじゃない。あいみょんなら25歳の自分が、今この世界で感じたことがあるからこそ、今、新しい曲が出てくるわけじゃない? 普通は「だったら今出そうよ」ってなると思うんだよ。でもあいみょんって、必ずしもそうじゃないんだよね。
「ああ、でも、基本的には毎日のように曲作ってて、これ今すぐ出したい!っていう気持ちはすごいあるんですよ。でも、もちろん好奇心と衝動は音楽を作るうえでめちゃめちゃ大事なんですけど、少しタイミングを誤ると全部がもったいないことになっちゃうんで。ほんまに料理と一緒じゃないですか(笑)。調味料は全部合ってるのに、そのタイミングで入れちゃうと全部がダメになる。ほんまそういうことなんですよね」
――つまり、自分が今出したいっていう事情よりも、人が何を食べたいか、どの味で食べたいかということを考えているというかね。
「あ、そうですね。もちろん、自分も出したい曲はあるけど、今どういうものが求められてるのかっていうのを、研究するのも大事ですしね。“裸の心”に関しては、わたしが出したいっていう気持ちが強い曲でしたけど、今はみんなどういうものを求めてるんやろうとか、ファン目線になっていろいろ考えるっていうのも、ひとつ大事なことではあるなあっていうのは思いますね。かといってファンに寄り添う曲なんて絶対書かないんですけど」
褒められたい欲が今、いちばんあるんかもしれないですね。あいみょん、こういうこともできるんや、みたいな(笑)
――大袈裟に言うとエゴイズムのあり方というかね、自己愛のあり方というかね。そういうものがあいみょんという人は、すごくフラットだなあと僕は思うわけですよ。「この曲は今自分が思ったことなんだから、この叫びをみんな聞いてよ!」っていうことでもいいんだけどさ、でもあいみょんはそこで一旦、客観的な意見を聞いたり、この衝動を今旅立たせるのはどうなんだろうか、みたいに考えるというか。「うん。ちょっと熱すぎるかな、みたいな(笑)。作る楽曲、リリースする楽曲って、もうめちゃめちゃ聴かれたいですし、ほんとに売れたいし。そういうがめつさがもちろんまだまだあって。だから、5人いたら4人が『この曲は最高!』って言ってくれないと、自信がなくなっちゃうんですよね」
――みんな聴かれたいわけだよね、曲を生み出したミュージシャンは。でも、どこかで、広く聴かれることよりも自分自身を詰め込む、自己実現のほうが優先される瞬間もあるというかさ。
「はいはい」
――あいみょんの活動、特に今回の曲なんかもそういうエゴを優先する動き方みたいなものは、ほとんど感じないんですよ。これってあいみょんという音楽家にとってすごく重要なんじゃないかっていう。そう言われるとどう?
「うーん、認められたら嬉しいっていう感情だけで動いてますね。かわいいでもかっこいいでも、すごいでも天才でも、なんでもいいんですけど。褒められたら嬉しいです。わたし、褒められるのめっちゃ好きなんですよ(笑)」
――この話は、“裸の心”につながるんですけど、なぜこの曲が今なのかっていうことの背景を、僕なりに思うと、この曲の持っている魅力やポテンシャルみたいなものをいちばん褒められる形で出してあげられるのは今なんじゃないかと思ったからなんじゃないの?
「ああ! 褒められたい欲が今、いちばんあるんかもしれないですね、もしかしたら。あいみょん、こういうこともできるんや、みたいな(笑)」
――そうそう。
「ずっと小学生みたいな脳味噌してるんかもしれないですね。お母さんに褒められたい、みたいな(笑)。やっぱ“恋をしたから”とか、そういうバラードもあるんですけど、言ってもアルバムの1曲なので。アルバムを手にして下さった方にしか届かないんかなというのがあって。でも、わたしも“恋をしたから”すごい好きやし、もっとテレビで歌えたりしたらいいのにって思っちゃうぐらいなので。そういう気持ちはあったかもしれないですね。いちばんこう、みんなにすごいって言ってもらえる時期、タイミングなのかもっていう」
――あいみょんの居場所作りにおいて、この曲の役割っていうのはどういう言葉で表現できるんだろうね?
「うーん、どうなんですかね……でも、わたしの中ではすごい大事な曲です。あのイントロ聴くだけで、自分の曲のくせにぞわぞわするんですよ」
――最初のあの鼓動の音?
「あ、鼓動もそうですけど、ピアノの♪レレン、テンテテン、も聴くだけで泣く!(笑)。たとえばですけど、自分があいみょんのファンやったとしたら、100%自分の結婚式には“ハルノヒ”か“マリーゴールド”をかけると思うんですよ。でも、“裸の心”もめっちゃいいなって思ったんですよね。あのイントロって、アルバムのめくり始めみたいで、すごいいいなあって。過去が一気にブォーン!って出てくるんですよ、あのイントロ聴くと。だからもしわたしがわたしのファンだったら、結婚式で流したいってずっと思ってました」
――あいみょんさ、ほんとに過去のアルバムをめくるみたいに、この曲を作った時の気持ちを眺められるようになったんじゃないのかなあ。
「あははは、なんか新しい能力を身につけたみたい」
――要するに、客観的に見られるようになった、懐かしいものにできた。そういう感じなんじゃないかな。
「うん。成長したのかな。25歳。ま、いつも客観的に自分のことは見るようにしてますけどね。SNSとかでもそうですもん。これアップしたらさすがにキモいやろとか(笑)、ちょっと一歩引いたところで、幽体離脱して自分を見るっていうのは、表に立つ人間としては、すごい大事なことやなと思う」
――ありがとうございます。また元気に会える日を楽しみにしてます。
「ほんとに。こちらこそです」
※インタビューの全文は『ROCKIN'ON JAPAN』2020年7月号に掲載