唯一の非恋愛ソング“会いたいと願うのなら”はキャッチーなギターリフと爽快なアンサンブルが特徴的なギターロック。ライブハウスを拠点に、11年間もがきながら最高の瞬間に手を伸ばしてきたthe paddlesの過去と現在と未来が描かれている。柄須賀と松嶋航大(B)と渡邊の3人にインタビューした。
インタビュー=小松香里 撮影=オガワタクヤ
──今作は新体制初のEPということは意識したんですか?“会いたいと願うのなら”の歌詞はthe paddlesを11年やったから並んだ言葉だなってすごく思いますね(柄須賀)
柄須賀 そうですね。このEPを作る前に“25歳”っていう曲を作ってリリースしたんですが、“夏の幻”は同じタイミングでレコーディングしました。あと“会いたいと願うのなら”の原形は1年前ぐらいにあって、剣人のミドルが強い感じのビートを意識して作って。“会いたいと願うのなら”は新体制一発目の名刺代わりになるようなものを作ろうと意識しました。
渡邊 僕は力強いドラムのほうが得意なので“会いたいと願うのなら”は僕に合う曲だなと思いましたね。
──“会いたいと願うのなら”はバンドとしての過去と現在と未来が描かれている曲です。
柄須賀 普段ライブのMCで言うようなことを歌詞に落とし込んだら面白いかなっていうのが出発点でしたね。2番のAメロの《背中は押さない 立ち止まるという選択の猶予がないから/手を引かれても足がすくむ日は その手をぎゅっと握ればいいと思うんだ》っていうのは剣人が加入してからのライブでよく言ってたことなんです。ライブと楽曲がリンクするんじゃないかと思ったんですよね。そこから広げていったら自然とライブハウスの歌になりました。1番のAメロの《今日もテールランプに照らされ/長すぎる新東名を抜ける》っていうのは大阪から東京に向かう時のことそのままで。新東名は半端じゃないくらい長いので(笑)。《忘れてしまった喧嘩の理由と汚いライブハウス》っていう歌詞も事実ですね。汚いライブハウスは僕たちの地元の寝屋川VINTAGEへの敬意を込めてます。the paddlesを11年やったから並んだ言葉だなってすごく思いますね。新体制一発目の作品っていう意味でも、このEPにとっても、ライブにとっても、この曲が核になりました。
松嶋 歌詞を読んでまんまthe paddlesのバンド人生だなって思いました。
──《描いた通りじゃないなんてそんなの別に当たり前さ》という歌詞が2番では《描いた通りじゃないからこそ ここで命を燃やすんだ》に変わります。
柄須賀 そこはライブで歌っててもいちばん熱が入るところですね。描いた通りじゃないことが当たり前って結構きついこと歌ってますけど、僕っぽいなって思います。ここも含めて僕が普段言ってることをそのまま落とし込んでます。「描いた通りって何?」って思うと、たとえば日本武道館が売り切れたとか、アリーナツアーをやるとかなのかもしれないですが、僕たちは天才ではないのでこうやって一個一個積み上げてやっていて。仕事でも学校でもトントン拍子にいくことなんて基本ないけど、それでええやんっていう。夢はあっても思い通りに進まへんのは当たり前やから毎日一個ずつ頑張ろうっていう気持ちが今のthe paddlesの核にはありますね。倍々ゲームじゃなくて、毎日毎日ファンがひとり、ふたりと増えていって、目標にしてる大阪城音楽堂に到達したらすごく美しい景色が広がるんじゃないかなと思うんですよね。the paddlesはそういう夢の叶え方をしていくのでみんなも日常を頑張ろうっていう思想が色濃く出た曲になりました。めちゃくちゃthe paddlesらしい曲ができたのであとの曲はふざけたことができましたね。
──他は恋愛ソングですよね。
柄須賀 そうですね。ふざけた曲が多いんですが“夏の幻”はしっかり者ですね(笑)。
──“ブルーベリーデイズ”の続編ということですが。
柄須賀 そうですね。王道のロックのバラードで、頭の部分はアジカンの“海岸通り”のオマージュですね。あとの4曲は問題児です(笑)。
──(笑)。結果的にラストの“結婚とかできないなら”をアルバムタイトルにしたのはどうしてだったんでしょう?この猛獣たちをまとめるには“結婚とかできないなら”っていうワードがあると「なるほど、そういうことね」ってなると思った(柄須賀)
柄須賀 今回、全曲のタイトルに入ってるワードが強いと思ったんですよね。“恋愛ヒステリック構文”とかもそう。あまり「構文」って曲名に入らないですよね。ラランドさんの「お母さんヒス構文」が好きで、それを恋愛に置き換えてやってみたんです。LINEで長文打って全部消したみたいな文句をブー垂れてるだけの歌詞で本当ふざけてるんですけど(笑)。あと“ちぎれるほど愛していいですか”は好きすぎていっちゃってる曲で。“夏の幻”は喜怒哀楽で言ったら哀。“結婚とかできないなら”は諦念に近い。波が落ち着く感じ。最後に人生観みたいなところまでいける大人な曲だと思っていて。この猛獣たちをまとめるには“結婚とかできないなら”っていうワードがあると「なるほど、そういうことね」ってなると思ったんですよね。この言葉がアルバム全体を監視してるような感じというか。
──松嶋さんと渡邊さんは“結婚とかできないなら”はどんな印象がありますか?
松嶋 派手なフレーズもなくて構成自体はめちゃくちゃシンプルで、3人でやってるからこそのいい素朴さがある曲やなと思ってます。ライブではまだ1~2回しかやってないんですが、やっていくうちに新しい発見がたくさんありそうな曲だなと。セットリストのどこでやってもハマりそうだなって思います。
渡邊 最初はめっちゃテンポが遅いのでバラードに使うことが多いバスっていうスネアにして、テンポが速くなるところからいつもの大きな音が出るスネアに替えました。かなりこだわったのでサウンド面ではいちばん満足のいく曲になったと思います。歌詞は赤裸々で現実味がありますよね。
柄須賀 さっき話した“会いたいと願うのなら”もそうですが、今回のEPは事実をそのまま書いただけみたいな歌詞が多いんですよね。僕の大好きな宇多田ヒカルさんがそうだったと思うのですが、「1%の事実を強調するためだったら99%はフィクションでもOK」っていう考え方に対して僕もずっとそういうスタイルだったんですが、今回は作品を作るっていう姿勢をちょっと捨ててみようと思って、逆に99%が事実みたいな歌詞になりましたね。“結婚とかできないなら”もほぼ事実ですし。
──1年前の『オールタイムラブユー E.P.』の時は小説や恋愛説をかなり読んでいて、はっとした言葉が載ってるページに付箋を貼って作詞の時に参考にしていると言っていましたが、今回は違う書き方をしたんですね。
柄須賀 今回も最初その書き方をしてみたら、自分の記憶が刺激されてそれに引っ張られて結果全部事実みたいになりました。だから恥ずかしいんですけど(笑)。
──でも、そこまで歌詞にできる実体験があるなら歌詞にしないともったいない気がしますけど(笑)。
柄須賀 そうなんですよね。もったいないので曲にしました(笑)。めっちゃ仲がいい友達が歌詞を見たらどのことかわかるんちゃうかなって思います。『EVERGREEN』を作った時からその瞬間にしか書けへん曲を書くって意識してるので、そこは変わってはないんですが、今回はthe paddlesの皇司として書いたっていうよりはただの皇司っていう感じですね(笑)。「ていうかさ」ぐらいの感じで書いたっていうか。“結婚とかできないなら”も“結婚できないなら”のほうが日本語的には美しいんですけど、“結婚とかできないなら”のほうが皇司っぽい。“ちぎれるほど愛していいですか”も“死ぬほど愛していいですか”とかのほうがわかりやすいかもしれないですし。
──「ちぎれるほど」は柄須賀さんの口癖なんですよね。
柄須賀 そうなんです。「ちぎれるほど頭痛いねんけど」とか「ちぎれるほど気持ち悪いわ」とかよく言ってて。《ちぎれるほど愛していいですか?/もう死ぬほど愛していいですか?》って鼻歌で出てきちゃったのでそのまま使いました(笑)。
──飲み友達から落とし穴みたいな恋に落ちたっていう流れもリアルですよね。
柄須賀 リアルですよね。リアルなんで(笑)。
──11年バンドを一緒にやってる松嶋さんはリアルだなって感じますか?
松嶋 そんなにプライベートな話をしないんですよね(笑)。
柄須賀 だから「へーっ」て感じやね(笑)。
松嶋 「へーっ」て感じです(笑)。聴いてくれる人が好きに感じてくれたらいいなって思ってます。
柄須賀 ドライやな(笑)。