前作『ニガミ17才 b』をリリースした後、活躍の場を急速に広げ続けているこのバンドの魅力は、最新作となる3rdミニアルバム『ニガミ17才 o』を聴けば、濃密に体感することができるはずだ。緻密に構築された音像とリズム、イマジネーションを激しく掻き立てる言語表現、エレクトロやヒップホップなどを含む多彩なエッセンスが大胆な融合を遂げている様が、「おしゃれ且つ変態な楽曲の表現」というニガミ17才が掲げているテーマを鮮やかに具現化している。紛れもなく唯一無二であるこの作風は、どのようにして生み出されているのだろうか? メンバーたちに語ってもらった。
インタビュー=田中大
「岩さんがアウトプットするものをそろそろ聴きたい」っていうのもあったので、先にリリース日を発表しました(平沢)
――6月28日の生配信番組の中で、「11月にCD出します!」って突然発表しましたよね。しかも、岩下さんへのサプライズという形で。岩下優介(Vo・G) そうなんです。僕だけが知らなくて。その話を聞いた時は、番組中に怒ったろかなって思いました(笑)。けど、番組が終わった後に、「岩さんは締め切りを作らないと動かない人だから」っていうあくびの想いを聞いたんです。
平沢あくび(Syn・Cho) ツアーが全部コロナでとんで、表現する場も達成感もない状況の中で達成感を得るために「17時間の生配信番組をやろう」って岩さんが言って、そこに向かって全精力を注いでいたんですよね。その様子を見て、「この番組が終わったら、岩さん燃え尽きるな。ただでさえリリースをずっとしていないのに、さらに遅れるぞ」と思ったんです。「岩さんがアウトプットするものをそろそろ聴きたい」っていうのもあったので、先にリリース日を発表しました。
岩下 どっきりみたいなのは、落とし穴くらいでいいんですよ(笑)。
平沢 それまでもメンバー内での締め切りの設定はあったんですけど、自分たちの間での約束だと期限を守らないことが多かったので、今回は「ほんとにできたな! 完成した!」って思っています。
小銭喜剛(Dr) こうして完成して、喜びがすごくあります。ここまで短い期間で(作品が)できたのは初めてです。
平沢 今回、期間が少なかったこともあって、今までと曲の作り方が違うんです。今までは岩さんがひとりで根詰めて作っていたんですけど、今は4人でひとつの部屋を借りていて、そこで岩さんが作業をして、私たち(平沢と小銭)は後ろで見守っていて、タツルボーイ(イザキタツル)はその間に別の曲のアイディアを作る……っていう、みんなが最初から関わりながらコミュニケーションをとるやり方でした。
イザキタツル(B) フレーズがひとつ生まれた時に、みんなの意見をすぐに聞ける環境だったんですよね。フレッシュな感じを詰め込めたのは、この環境があったからです。
平沢 岩さんは緻密な計算をしながら作るんですけど、今回は印象が変わった感じがあります。ただでは聴かせたくないところはこだわりつつ、聴きやすくなったのかなと。
岩下 「聴きやすい」は、ちょっと嫌です(笑)。リズムをシンプルにしているので、もしかしたら一聴して聴きやすいのかもしれないですけど、随所に時間をかけているところがいっぱいあるので、ポイントポイントをヌルッとは聴かれたくはないかな。聴き方は自由ですけど、何回聴いても発見があるものになっていると思います。
「違和感」は、ニガミのテーマにはしていますね。もっとキャッチーな「変態」っていう言葉を使っていますけど(岩下)
――ニガミの曲って、「違和感」みたいな心地好さが一貫してありますよね。たとえば“幽霊であるし”は不思議なタメや、一瞬つんのめるような感じになるのが、妙に気持ちいいです。岩下 「違和感」は、ニガミのテーマにはしていますね。もっとキャッチーな「変態」っていう言葉を使っていますけど。今回はタツルボーイが完成させたプラモデルを僕がレーザーで切り分ける感じっていうか。タツルがパーツを作って、4人でどう組み立てるかを話し合って、ザクが完成して、僕がレーザーでバーン!ってやってから繋ぎ合わせる……っていうような(笑)。ライブ、どうします?
イザキ 今回、「作品」として作り上げているので、ライブで生身の4人が演奏すると難しい部分も多々あるかもしれないですね。でも、そこを考えるのは楽しみでもあり、ニガミの上手い部分でもありますからね。面白い感じにできるよね?
小銭 うん、できる。
平沢 練習するしかないですね。
――ニガミの音に関して、僕が好きなフィーリングのひとつは、リズムパートの残響を切り落として独特なノリを生んでいるところなんですけど、こういう手法、好きですよね?
岩下 好きですね。シンバルの残響をスパッと切ったりするので。
小銭 そういうカットアップはどの曲にも入っていて、それによって出てるノリは面白いと思います。
岩下 ベースに関しても「空白で弾く」みたいなところがありますからね。残響を切っているところもリズムとして捉えているので。
――こういう音のノリも含めた「違和感」は、歌詞に関しても言えるところだと思います。明確に「わかる!」と言える感じではないんですけど、不思議となんとなく伝わってくるものがあるので。
岩下 ひたすら長い文章を考えて、自分が何を言いたいのかも削ぎ落として……っていう感じです。今回は僕が設定を作って、たとえばあくびが「この人、何才なんですか?」とか訊いたりもして、細部まで考えながら文章に落とし込んでます。僕はどんな言葉でも上手く歌えるので、自分が歌いたいことしか詰め込んでないです。あんまり種明かしをするとあれなんですけど、たとえば“幽霊であるし”の《幽霊》って、僕の中では「曖昧になっていく記憶」っていうものの総称なんですよね。
――“オフィシャル・スポンサー”にも《幽霊》が出てきますよね。“& Billboard”と“Jimmy Perkins”は、どちらも《ようこそ新しい世界へ》という一節があったりしますし、こういうのもいろいろ想像が膨らむポイントです。
岩下 “Jimmy Perkins”はいろんな実験をしてる曲なんですよね。なんて言っているかわからない歌詞を見ながら聴いてほしいです。1番と2番の歌ってるボーカルのサンプリングって、まったく一緒のものなんですよ。だけど、歌詞を見ながらこの曲を聴くと、違うもののように聴こえるんです。そういうのは不思議だからやりたかったんですよね。