TVアニメ『池袋ウエストゲートパーク』のティザーPV曲“No.1”、エンディングテーマ“after song”、“思うまま”が話題を呼んでいるバンド、INNOSENT in FORMAL。ストリートカルチャーを描く本作に、さまざまなジャンルを自由にミクスチャーしたイノセンらしい楽曲とラップがマッチし、『IWGP』の世界を盛り上げている。映画から飛び出してきた架空のカートゥーン・バンドとして活動開始して約3年、ポップでミステリアスな側面を持ちつつ、血の通ったリアルなロックと言葉を追求してきた彼ら。メジャーデビュー作となる『INNOSENT 2 ~How to Spend the night~』は、攻撃性だけでなく、弱くてネガティブな部分もさらけ出し、グッと奥行きが増した温かみのあるアルバムに仕上がった。まだまだ謎多き存在=ぽおるすみす(Vo)に、そのルーツからこれからの野望までじっくり訊いた。
インタビュー=後藤寛子
アルバムのコンセプトとアニメ『池袋ウエストゲートパーク』のお話とが重なる部分があったので、それで方向性が固まった
――アルバムにはTVアニメ『池袋ウエストゲートパーク』で使用されている楽曲が3つ入っていますが、ティザー用に1曲、EDで2曲って珍しいですよね。「僕も驚きましたね。3曲提出して、このなかから選んでくださいって感じだったんですけど、3曲とも使っていただけることになって。もともと曲はあって、演奏面も固まっていたので、ライブでは適当に歌っていた曲だったんです。で、アニメに合うだろうなと思って選んでから、しっかり歌詞を書きました。アニメのお話がなかったら、完成はしてなかったんじゃないかな」
――特に“after song”と“思うまま”の歌詞は、ちょっとうしろを振り返っているというか、哀愁漂う感じが今までのイノセンのテイストとも違うなと思いました。そのあたりはアニメの影響ですか?
「そうですね。今回のアニメのお話をいただいたのと、近々アルバムを出そうっていう話が同時進行していたんですけど、ちょうどアルバムのコンセプトとアニメのお話とが重なる部分があったので、それで方向性が固まったんです。具体的には、人との出会いと別れみたいなのがテーマで。東京以外のところでもライブをやるようになって、いろんな人と出会うようになったけど、結局打ち上げで終わっちゃう人もいれば(笑)、そのあとも連絡を取り合う人もいたりして。観に来てくれる人に対しても含めて、そういうなかで感じたことですね」
――繋がりが広がっていく喜びっていうほうじゃなくて、結構センチメンタルな方向にいったんですね。
「そうですねえ。あとは、コロナ禍で改めて考えた時に、意外と友達少ないな……って思っちゃったりもして(笑)。でも疎遠になったからといって仲悪いってわけでもないなとか、今まで出会った人たちのこととか、そういうことを考えるいい機会にもなったんですよね。この3曲を書き始めたのは今年入ってすぐだったんですけど、アルバムのほかの曲は5、6月で、ちょうどまさに、の期間で。前の作品にもちょっとセンチメンタル系な曲は入ってたりするんですけど、こうやってリード曲として打ち出すことがなかった感じですね」
――今までは、ロックな曲、歌モノの曲、ヒップホップな曲、みたいにいろんな曲が入ってるイメージだったんですけど、今回はアルバム一枚通して統一感があって。楽曲を作ってから全体のコンセプトを考えたんですか?
「楽曲が先にあって、できたものからコンセプトを決めていって、歌詞を書く、みたいな感じです。僕としても、今までで一番満足のいく出来になったかと思います。ずっとやりたいことをやっているので、トータルのイメージは今までの作品たちとそこまで差はないですけど、全体の精度が上がったのかもしれないですね。今まで、もととなる曲をメンバーで作って、そこにメンバーだけでは表現できない音とかをアレンジャーの方に足してもらうっていうことをしてたんですけど、今回はまた別の方が入ってくださって、トータルプロデューサー的に、その方とアレンジも含めて一緒に作っていったので、精度が上がったのかな。フレーズとかも含めて、そこまで突っ込んだ意見が入ることは(今まで)なかったので。メンバーのなかでも、楽曲制作に対する考え方が今回のアルバムで結構変わったんじゃないかと思います。もともと自分たちがこういう曲を作りたいっていうのは当然あるんですけど、自分たちのやりたいことよりも、出来たこの楽曲をどうやってよくするか、っていうことを優先順位の一番上にして。それは、今までと違う作り方でしたね」
――音が削ぎ落とされて、隙間が増えたような質感がありますよね。
「そこを感じ取っていただけると、すごく嬉しいですね」
“R.I.P.”は僕の内面が出てる――というか、今回のアルバムは今までの作品より出ちゃってるかもしれない
――“after song”と“思うまま”っていうミディアムな楽曲がリードとして広がっていることについてはどうですか。「よかったです。ミディアムな曲の人気が出ると、ライブするときにあんまりカロリー消費しないし(笑)、違う見せ方も出来そうで。こういう曲がイノセンのなかで人気が出るって今までだとないことなので、ちょっと新鮮ですね」
――詞の世界観もあるので、ラップの響きも新鮮ですよね。
「結構オープンマインドに見られることが多いんですけど、実はネガティブだったりインドアだったりするので(笑)、こういった歌詞を書くことはこれまでも多かったんですよ。でも、今までは楽曲に合わなかったりして。今回、合う曲が出来て、自分が今まで書いてたけど使えなかった歌詞の方向性が当てはまったのは、こういう社会の状況下とかも影響してきたのかなあと思いますね」
――今回、いわゆるアッパーのロックナンバーっていうのが、“Junkie's never enough”くらいですから。全体的にちょっとダウナーなモードなのがしっくりくる気がします。
「たしかに、ちょっと暗いっすね(笑)」
――いやいや(笑)。特に最後の“R.I.P.”は《ぽおるすみす is DEAD》っていうラインが意味深で。この曲はトラックだけで、生音なしですか?
「これはトラックだけです。イノセンでは初めてですね。個人的には昔トラックも作ってたんですけど、バンドで曲を作るようになってからはやってなかったんです。でも、コロナで自粛期間に入ってせっかく時間が出来たので、トラック作りをもう1回やろうと思って作りました。メンバーも気に入ってくれてるみたいです。歌詞は……僕、今年1回死んだんで。ははは!(笑)。というのも、ちょっと落ち込むことがあって、その過去との決別じゃないですけど、内面的な弱さと決別するためにこうしました。でも落ち込んでいるところにコロナがきて、落ち込むのをある意味ストップ出来たから、僕は逆にちょっと助けられた部分もあったんです。そのときに、やっぱりラップに書かないとな、って思って出来た歌詞ですね。デトックスというか、老廃物を排泄したっていう感覚はありました。この曲は僕の内面が出てる――というか、今回のアルバムは今までの作品より出ちゃってるかもしれないです」