あいみょんが11thシングル『愛を知るまでは/桜が降る夜は』を5月26日にリリースした。シングルとしては、昨年6月にリリースされた『裸の心』以来、実に1年ぶり。コンスタントにシングルをリリースしてきた彼女にとって、久々の一枚となる。
“桜が降る夜は”は、2月17日に『恋とオオカミには騙されない』主題歌として配信リリースされた。そして、“愛を知るまでは”は、ドラマ『コントが始まる』主題歌。どちらも、すでに耳にしている人は多いと思うが、シングルになってあらためて向き合うと、歌詞の絶妙な言葉遣いや、この時代に突出して響く王道のアレンジに、舌を巻かずにはいられない。2曲の背景にあるあいみょんのリアルと、それを今歌う必然について、徹底的に聞いた。
インタビュー=小栁大輔 撮影=磯部昭子
やっぱり私といえばこういうスタンダードなアレンジやなって。
私は、優しいシンガーソングライターになりたいんで(笑)、丸みのある音楽が王道です
――お元気ですか?「超元気です、相変わらず」
――今回“桜が降る夜は”を聴いて思ったことでもあるんだけど、あいみょんって、アコギと声で曲を作っていくわけじゃないですか。その時に、ある程度のアレンジが頭の中に鳴っているものなの?
「いやー、鳴ってないです。アレンジは、アレンジャーさんの第一印象でやってほしくて。それで、返ってきたものに、『ここはもっとこうしたい』『この音はいらんかも』とか、そういうことは言います」
――“桜が降る夜は”のアレンジが上がってきた時は、「あの曲がこうなったんだ!」という気持ちなのか、「これこれ!」という気持ちなのか、どういう感覚だったの?
「いつも大抵は、『こうなったんだ!』っていう感じです。今回の2曲(“愛を知るまでは”/“桜が降る夜は”)に関しては、王道でいこうと話していました」
――でも、あいみょんって、基本的には王道じゃない?
「そう、王道なんです。だから、上がってくるアレンジに関しては、『お! こんな感じできたんだ!』っていう感覚だし、『あいみょんっぽい!』って感じなんです。ちょこっとずつ学んでるので、ここの音はあったほうがいいとか、ここの音は一瞬だけなくしたほうがいいとか、今もニュアンスでしか喋れないんですけど、そういうことは田中(ユウスケ)さんに伝えられるようになった感じがします。私、イチから自分でアレンジまで作ってたら、一生曲を出せないと思います。アレンジャーさんにほんとに助けられているなあって」
――王道って言ってくれたけど、この2曲はまさに王道だよね。僕の感覚で言うと、「スタンダード」なんだけど。
「そうですね、うんうん」
――よりいっそう、あいみょんのスタンダード化が進んでいて、かつ、自分が王道だよねと思って作っているものと同時に、誰が聴いても王道だよねって思えるような実感が、きっと今はしっくりきているんだろうなって。
「まさにそうですし、私がそもそもやりたいのって、それやったりするんですよ。おしゃれな音楽がやりたいわけではないですし、みんなが長く聴ける音楽、歌ってもらえる音楽が、自分には合っているなって、シングル11枚目にして思うところではありますね。やっぱり私といえば、こういうスタンダードなアレンジやなって。ものすごくしっくりきていますし、それが好きですし。最近だと、王道って逆にダサいって思われてそうで。みんな、カチカチした音楽とか、カクカクした音楽をやっていて、丸みがないなと思うんですよね。もちろん悪いことじゃないんですけど。自分にできないから言っているだけで(笑)。ただ私は、優しいシンガーソングライターになりたいんで(笑)、丸みのある音楽が王道かなって思ってはいますね」
――なるほどね。その丸み作りは、もしかしたら「丸み残し」みたいなことなのかもしれないけれど。
「ああ、そうですね、丸みを残しているのかも。あんまりピコピコした音は入れたことがないんで。そういうのもやってみたいと思うこともあるんですけど、今回は王道でいこうっていう」
――確かに、今の時代、王道なものがメインじゃなくなっているというかさ、そういう逆転現象も感じるよね。
「今って、TikTokが王道なわけじゃないですか。それに関しては、すごい時代になったなあって思うぐらいで、自分のスタンスは変わらない。でも、今の小さい子たちは、フォークとかアコースティックより、デジタルな音に憧れるのかなと思いますけど、それに対して、悲しみとかは特にないです。みんな、好きな音楽を好きに聴いてもらえたらなあって」
――でも、丸みの残し方、丸みの作り方、丸みの磨き方――そういうものがどんどんうまくなっている気もするんだよね。わかってきているというか。
「わかってきちゃうんでしょうね、きっと。それが学ぶっていうことだと思うんですけど。形ができると狙いにいけるわけじゃないですか。それをやるかやらんか、それだけやと思っていて。今回はやりにいった感じです」
桜の歌はもう書かないと思いますね、人生で。そんなに書くもんじゃない。もう、摘んじゃった感がある(笑)
――“桜が降る夜は”は、曲の内容としてもまさに王道の曲で。で、恋心という、とうになくなってしまった部分、なくなったと思っていた部分がきっちり歌に出ているよね。「そうですね。これ、22歳の時に作っているので」
――22歳! なるほどね。
「そうなんですよ。2017年は私自身、めちゃめちゃ曲を作っていた時期で。 “猫”とか“マリーゴールド”も同じ時期ですね。そうしているうちにこの曲が埋もれていって、4年経っちゃったんです。きっと、もう書けないですし、こういう想いは。《死ね》とか言っていたんですけど(笑)、こういうピュアな気持ちだって持っていたんだなって、あらためて思いましたね」
――すごいよね、この曲のピュアさは。
「超ピュアですよね。超かわいい(笑)」
――ひとつの恋心、一点の恋心を歌っているよね。
「書けないなあ、もう。私にはストックというか、財産がたくさんあって」
――いい言い方。
「財産が貯まっているんですよ。使わないと、出せなくなってくるので。だから、『あいみょんは今こんな恋をしてるのか』って言われるけれど、実は4年前の曲なので。そう言えるのが強みだったりしますね。『あいみょん、変わっちゃった』とは言わせない(笑)」
――なるほど(笑)。でも、歌は最近録ったわけだよね。
「そうです。でもね、声もかわいらしく歌っているじゃないですか」
――そうなんだよね。
「これは、結構デモのままですね。デモは4年前の歌声ですけど、歌詞に合わせてキャラクターが変わるので。最近、そこも自分の強みやなって思うようになりましたね。声、めっちゃ変えられるんですよ。いいもんを見つけたなって思いました(笑)。でも、曲が出るタイミングって、意外と運命的なものがあると思うので。今やからこの声で、ちょっとかわいらしく歌えたりしたんだろうなと思うんですよね」
――うん。
「でも、桜の歌はもう書かないと思いますね、人生で」
――それはどうして?
「たとえば、また私がマリーゴールドの歌を歌ってたら引くじゃないですか。お花の歌って、1回でいいような気がしちゃうんですよね。そんなに書くもんじゃない。特に桜とか、私はきっともう書かへんなって思ってます。実際に、この4年間、書いていないので。もう摘んじゃった感がある(笑)」
――ははは。
「日本中のマリーゴールドをいただいたので。だから桜も、どれだけすっごい桜を見ても、もう書かないんじゃないかな」
――あと、これもあいみょんらしい表現なんだけども、「桜が降る」って、絶妙な言葉選びになっていて。
「ああ、これにはたぶん、理由があるんです。もちろん、『桜が散る』っていう表現が合っているとは思うんですけど、東京で見た桜の場合は――私の場合はずっと足元を見ていたので、上を見ると『散っている』になって、下を見ると『降っている』になるんです。雨とか雪とか、どこからともなく落ちてくるものって、『降っている』になるじゃないですか。その時、木から散ってる桜を見ていないから、『降っている』っていう感覚になる。『雪が散っている』とかって言うんかな?」
――言わないかなあ。
「うん、そういうやつやと思います。面白いですよね、日本語って。上を向くと『散る』で、下を見ると『降る』。私はそうやなあ」
――「散る」って、枝から離れた瞬間のことだよね。そこから先の時間は「降る」になるのかもしれない。
「あとは『舞う』とかね」
――「降る」って絶妙なワードだよ、さすが。
「いや、日本語を間違えていただけかもしれないです(笑)。それも、無知の面白さなんですけど」
『ROCKIN'ON JAPAN』では2号連続であいみょんを特集! “桜が降る夜は”を語ったインタビュー&撮り下ろし写真の全貌は、現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』6月号に掲載!