前作『Never Grow Up』から約2年ぶりに放つフルアルバム『ハレンチ』は、ちゃんみなが、これまでのキャリアの中で最も「歌」に踏み込んだ一枚となった。“Angel”や“美人”でも新境地を見せてきた彼女だが、今回はさらに「J-POP」にアプローチした作品を作り上げた。ジャンルレスに様々な音楽にルーツを持つちゃんみなは、J-POPもそうしたルーツのひとつとして、自身を構成するひとつの要素として、リスペクタブルに捉えて表現しているのがわかる。そして、この歌声の多彩さ、美しさ、しなやかさには改めて驚く。ちゃんみなの音楽性がさらなる広がりを見せたこの『ハレンチ』は、どのようにして生まれてきたのだろうか。
インタビュー=杉浦美恵
私の友達にすごいJ-POP好きな子がいて、この子だったら、いい味出してくれるかもって思って
――まず、4月にリリースされた『美人』についても少しお聞きしたいんですけど、表題曲は、ちゃんみなさんが抱いている「美」というものへの考え方、向き合い方を表現しきった曲で。あのテーマを1曲で表現しきったものって、日本にはこれまでなかったと思うんです。今改めて、『美人』をリリースできたことについて、どう感じていますか?「あの曲を作るのは、めちゃくちゃ大変だったんですよ。でもその大変さを忘れるくらい、ほんとにすっきりしましたし、曲を聴いて救われたという声もたくさんいただいたし、嬉しい限りです」
――ずっと表現したかったテーマだったと思います。それをあのタイミングで出せたというのは、なぜだったんでしょう。
「作品や私に対するコメントに、アンチのコメントがなくなったのがきっかけですかね。もちろん完全にゼロではないけど、とても多かった時代から、そういうコメントがなくなった今、その一連の流れの中で感じたことでもあるし、これから私を知っていく人も増える、その前に、私の中でそういう思いを楽曲に落とし込めたらなと。そしたら半年もかかっちゃって(笑)。大変でしたね」
――『美人』を経てさらなるフェーズに突入したのもあるし、いい意味で吹っ切れた感じもあって、それが今回の『ハレンチ』というアルバムに繋がっていると感じます。まず『ハレンチ』というタイトルをつけたのは、どういう意図があって?
「ハレンチという言葉自体はマイナスなイメージで使われることが多いと思うんです。でもすごく強い言葉で、『恥を恥とも思わない』とか、『恥知らず』っていう意味があって。カタカナで使われることが多いから、日本の方でも、もとは英語かなって思ってる人も結構多くて。どこ由来の言葉かよくわからない響きがあるし、だけどその言葉自体には強い本質があるっていう。その言葉の本質に、自分との共通点を感じていて、私は昔から好きな言葉だったんです。どこか私と似てる部分があるというか。私がハレンチだということではなくて、言葉の概念みたいなものが私と似ているということです」
――なるほど。『ハレンチ』という言葉の成り立ち、在り方が、ちゃんみなさんらしいということですね。で、まずその表題曲について話を聞きたいです。これは生音のグルーヴが心地好くて、気だるくてメロディアスな歌がとても耳に残る曲になりました。どういうふうにできた曲ですか?
「これは、『美人』を作り終えてから、すぐに制作に入った曲なんですけど、ツアーの制作とかぶっていたのもあったし、『美人』が結構大変だったのもあって、そのあと、賢者タイムに入ってしまって(笑)」
――賢者タイム(笑)。でもあれだけの作品を作り上げたらそうなりますよね。
「なんかキツイ、みたいな。もう何を書いたらいいかわかんないし、でもアルバムを出すことは決まっていたし。全然曲ができなかったんですよ、ピンとくるものが。で、コロナ禍とかでスケジュールが押したり消えたりっていうことが続いて、レコーディングの予定も2週間くらい一気になくなってしまった時があって。その時にはまだ満足できる曲ができていなかったので、いてもたってもいられない時期だったんですけど、『未成年』ぶりに自分でやってみようって思い立って、その2週間の間に自分で作ってみたんです、コード弾いたりなんかして。で、メロが出てきて、いいかもってなって。それを、私の友達にすごいJ-POP好きな子がいて――全然今回一緒に仕事する予定じゃなかったんだけど――あ、この子だったら、いい味出してくれるかもって思って。今までも仲よかったんだけど、そうやって仕事で関わることはなかったので、ちょっと連絡してみようかなと。で、『今から家に行ってもいい?』って。その子の家にスタジオがあるので、そのスタジオで完成させたっていう感じでした」
――それが今回共作したBENAさん。それで曲を完成させていったんですね。
「そうですね。転調も初めてやってみたんですけど、今回すごくJ-POPに寄り添いたいと思ったんですよ、このアルバムで。こだわった部分として、新曲はタイトルが全部日本語表記なんですよね。今までも日本語で歌っていたけど、J-POPサイドのものっていうのは私の中にはなかったんです。でもJ-POPもすごく好きなのでやってみたいっていうのがあって。だからピアノのコードは結構いつも通りな感じなんですけど、アレンジを変えるだけで違うものになるし、歌い方とRecの仕方でもすごく変わる。それがとても新しかったし、私の中でイメージしていたJ-POPっていうものが反映できたのかなっていう感じです」
“太陽”は、アルバムを聴こうと思っている人とか楽しみにしている人に、最初に届けたい曲だなって思いました
――“ハレンチ”は歌メロがすごく強く刺さる曲だし、そのほかの新曲もそういうものが多いですよね。ちゃんみなさんの歌唱のバリエーションもすごく広がって、歌にフォーカスしたアルバムになったなという印象です。「“ハレンチ”は超スランプに入ってた時期の曲なので、これができてすごくすっきりしましたね。ここからアルバムに向けて開けていったという感じでした」
――スランプ。やはり『美人』という作品はそれほどの爪痕を残すものだったんですね。
「ほんと抜け殻でしたね。もう私、才能なくしたんかなって。警察行こうかと思って。落とし物届け(笑)」
――才能落ちてなかったですか?と(笑)。
「そう(笑)。それくらい結構きつかったです。だからいつもとはちょっと違うやり方でやってみようと思って。そっから開けていきました。で、その次にできたのが“太陽”なんです」
――今作、この1曲目ですごく驚いたんです。ここまでピュアに歌を表現するちゃんみなは初めてですよね。
「そうですね。初めてです。ちょっと合唱っぽい感じなんですよね」
――すごく沁み込んでくるような美しい歌声で。
「ASMRみたいな(笑)」
――悲しさ、寂しさも滲んでいるけど、穏やかさ、やさしさを強く感じる。
「自分でも気に入ってます。やっぱり、アルバムを聴こうと思っている人とか楽しみにしている人に、最初に届けたい曲だなって思いました」
――3曲目の“君からの贈り物”も、とてもキャッチーなポップですよね。まずここまでの並びで新しいちゃんみなを感じるアルバムになっていると思います。アイロニーに満ちた歌詞はすごくちゃんみならしいけれど(笑)。
「めちゃめちゃ嫌味ったらしいですよね(笑)。これは、『ハレンチ』というタイトルでアルバムを作ろうって決めてから、いちばん最初にできた曲なんです。その前に入れた“Angel”の回収みたいな感じで。“Angel”の一時のあの感じが終わって、時が経って、そういえばそんなことあったなくらいな感じで。それを振り返ってみた時に、こんな感じでハッピーでした(笑)」
――“太陽”をはじめ、今作ではボーカルの新境地という部分もすごく大きくて。“ホワイトキック”も、このキャンディボイスというか、スウィートな歌声が新鮮ですよね。
「これ大好きなんです」
――エレポップ風のかわいいアレンジで仕上げていて。
「この曲、内容はあまりないんですよ。ホワイトキックっていう言葉は、もともと私のメイクさんがコギャルでいらっしゃって(笑)。ある日『ホワイトキックって知ってる?』って聞かれて、私は全然知らなかったんですけど、以前流行っていたギャル語なんですよね。『シラケるっていう意味』って教えてくれて。その時代のギャルってすげえ頭切れるじゃん!って思って、とにかく感心しちゃって。そっから気に入ってて、それをオシャレに落とし込んだら面白いだろうなって思ってたんです。で、シラケると言ったらうちのバレちゃんだなって思って。バレンタインっていう名前の猫を飼ってるんですけど、そのバレちゃんを見ながら作った曲です(笑)。もうその子がすごいかわいくて溺愛してるんですけど、よく『おまえそれシラケるわ』みたいな顔をするんですよ。それがかわいくて。なのでただの親バカソングです(笑)。すごいツンデレなんですよ。もうほんとこの歌詞のままですね。バレちゃんが歌ってるっていう設定なんです」