優しくなったんですよ。嫌な人なんてたくさんいるから、そいつらなんかにいちいち目を向けててもしょうがないっていうスタイルになったんでしょうね(佐藤)
――柔和さを特に意識したのが“微睡”だと思うんです。これはもともと赳くんが弾き語りで歌ってた曲なんですよね。佐藤 僕はインスタライブをやるぐらいなら、ちょっとでもお客さんを入れてやろうよって思うタイプで。そういう時代になっちゃった姿を見て書いた歌詞なんですよ。時代背景や今のコロナも映し出したりして。
――この曲って、コロナ禍やSNSに対する気持ちを綴ってますけど、『風景になって』に収録された同じような視点の“イヤホンの奥から”だと《ひっくり返してやる》や《ぶっ壊してやる》みたいなフレーズが並んでたのに、“微睡”だと《あの日がまた戻るように》と歌ってて。
佐藤 優しくなったんですよ。嫌な人なんてたくさんいるから、そいつらなんかにいちいち目を向けててもしょうがないっていうスタイルになったんでしょうね。
――“Tender”とかもそういう柔和さが滲み出てる曲だなと感じたり。
佐藤 たしかに。でも、これはアンチテーゼというか、ラブソングが世の中にいっぱいありすぎて「これ以上いらなくね?」って思って歌詞を書いたんです。「歌詞にできるぐらいなら、もうラブソングじゃなくね?」っていうのを歌いたかったというか……実は尖ってるみたいで嫌だな(笑)。
――でも、koboreらしい視点だと思いますよ(笑)。また、“MARS”は軽快なポップチューンですけど、上がりすぎないテンション感があって、作品全体のムードにもマッチしてるなと。
佐藤 そらと交ざって制作したことによって、我が消えてるのかもしれないです。いい意味で中和していったのかも。
――以前だったら、もっとエッジを効かせた仕上がりになってそうですよね。
佐藤 だと思います。この曲はメロディがめっちゃいいから、あとは邪魔しないぐらいのシンプルさっていうか。そういうのを取り入れてみたり。
――アレンジをしていくうえで意見を言い合うこともあったんですか?
佐藤 めちゃくちゃ言い合いましたね。レコーディング中にもかなりケンカしたし。
田中 でも、何も言えないより、すごくいいと思ってます。言ってほしいし、ちゃんと言いたいし。
――いちばん化けたというか、変化を遂げた曲というと?
佐藤 “グッドバイ”とか。ケンカはしてないんですけど、僕が作ったデモとはまったく違う感じに楽器隊の3人がしてくれて。「こういうアプローチもあるのか!?」って。
田中 (デモから)もっとよくなるだろうと感じて、すぐにスタジオへ入って詰めましたね。
佐藤 あと、アレンジで化けたなっていうと“ジェリーフィッシュ”とかも。バンドがせーのでバーンって音を鳴らした時に奥行きを作るのって、めちゃくちゃ難しいなと感じた一曲。いい楽器の位置感で音も作れたし、クラップもいい感じで溶け込んでくれた。koboreらしくない曲をあえて1曲目に持ってきた意味合いを理解してもらえると嬉しいですね。
――作品の瞬発力だけを考えたら2曲目の“キュートアグレッション”を冒頭に選びそうですし。
佐藤 そのほうがkoboreらしいですよね。
――そこで、あえてイントロも長めでどんどん惹き込むタイプの曲を持ってきたところに、バンドのいいムードを感じました。
佐藤 試聴機で聴いた時、ひと言目が「えぐっ!」であってほしいですね(笑)。
(”勝手にしやがれ”は)koboreの理想を書きました。あと、ライブハウスとお客さん、koboreを好きだって言ってくれる人への気持ち。絶対に生で聴いてほしいなと思いますね(田中)
――歌詞の話に戻ってしまうんですけど、今回は英語のフレーズを多用してますよね。これまで、英語もカタカナにして歌ってたようなバンドだったのに、印象的なサビで英語のフレーズをリピートしてるのが気になったんです。佐藤 J-POPの女性アーティストの曲をガッツリ聴く時期があって、英語の入れ方がすっごい気持ちよかったんですよ。しかも、その英語自体が誰でもわかるようなパンチラインになってるし。そういうのも取り入れていったら面白いんじゃないかなって。
――違和感みたいなのはありました?
佐藤 最初はありましたね。でも、日本語の言葉遣いはきれいだけど、やっぱり英語も使い方によってはしっかりリンクするし。英語と日本語で韻を踏むことだってできるし。そういうヒップホップも好きなんで。気持ちよく聴いてもらいたいというところですね。
――そういった中で、そらくんが作詞・作曲したkobore流の青春パンクとでも言うべき“勝手にしやがれ”はいい味を出してますよね。ストレートに熱い気持ちをぶちまけていて。
田中 曲の土台自体はずっと前からあって、歌詞を赳に書いてほしくて1回投げたんですけど、どうしてもイメージと違って。
佐藤 「こうあるべきだろ」っていう歌詞を書いてほしかったんでしょ、そら的に。
田中 そうだね。でも、さっき話してたように赳の価値観が変わったっていうのもあるだろうし。自分でkoboreの理想を書きましたね。あと、ライブハウスとお客さん、koboreを好きだって言ってくれる人への気持ちです。絶対に聴いてほしいなと思いますね、生で。
――曲の締め方もそうですし、本当にライブっぽい仕上がりですよね。
田中 サウンドにもこだわって、絶対にきれいにしないように、って。
佐藤 だって、そらは上裸でレコーディングしましたよ、この曲(笑)。
田中 ベース録りは上裸で、ガヤ録りはパンイチでやりました(笑)。ライブ曲ですね、マジで。
――koboreとライブは切り離せないと思いますが、このコロナ禍でもずっとライブを続けてますよね。
佐藤 やってきましたね。
田中 万全ではないんですけど、集客とか。
――それでもやった意味はありましたか?
田中 意味しかなかったです。
佐藤 今(ライブを)やってないバンドに、今やってるバンドが負けるはずがない、って。やっぱり、ライブって重ねていくモノだと思ったし。ライブ1本1本をまわれたことが、自分らにとってかなりプラスになってると思います。
――スタンスとして、今の状況下に対応していこうという感じなのか。それとも、ステージ上は一緒だから変わらずやるだけだ、という感じですか?
佐藤 完全に後者ですね。ツアーで言われた言葉がずっと残ってるんですけど、お客さんにライブを合わせちゃダメだなと。お客さんがジッと観てるからしっかり歌おうじゃ普通だし、普通なんて響かないんですよ。ステージにいる以上、持ってきた熱量をどれだけ超えられるか、みんなができないことをどれだけやれるかだと思うし。だったら、無茶ばっかりして、ツアーの本数を発表した時点で「ヤバ!」って思ってもらえるようなバンドでずっといたいですね。