「80’s×現代=レトロポップ」というテーマを追求しながら活動を重ねている武藤彩未。自身の誕生日に配信リリースされるデジタルシングル『IMAGE BOARD』は、彼女が愛して止まないものに対する想いが音と言葉に託されている作品だ。シンガーソングライター川嶋あいが手がけた“holic”。DENIMSの釜中健伍が提供した“Favorite”――どちらも80年代頃の歌謡曲への敬愛、シティポップへの憧れで彩られているのを感じる。この2曲について彼女に語ってもらったインタビュー。アイドルグループでの活動を経てソロシンガーとして前進し続けている彼女の原動力も伝わると思う。
インタビュー=田中大
「古い音楽」とか思ったことはないです。今の時代にはない風景とか描写も、私にとっては新しいんです
――80年代のポップスがお好きなんですよね?「はい。育ったのが厩舎の真横で、お馬さん優先の生活だったんです。お馬さんは音に敏感なので、家では音楽を聴くことはなかったので、家族でドライブに行く時の車の中や、カラオケが音楽に触れることのできる機会でした。そういう環境だったので、自分の世代で流行っている曲よりも両親世代の歌謡曲を好きになっていったんです」
――リアルタイムで流行っているものは、全然聴いていなかったんですか?
「聴いていなかったです。テレビとかも観ていなかったので、小学校の給食の時間にORANGE RANGEさんとかが流れているのを聴いたくらいでした」
――歌謡曲のどういうところに惹かれていました?
「今になって思うと歌詞を聴かせる曲が多くて、そこが好きだったのかもしれないです。聴いていると情景が浮かんで、その世界に入り込めるんですよね」
――松本 隆さんの書いた歌詞とか、情景が浮かびますよね。
「まさにそうですね。最初は意識して聴いていたわけではないんですけど、ふと気づいたら、『あの曲もこの曲も松本 隆先生だ』ってなっていました。そこからは松本先生の作品を辿って聴くようになって、自然とはっぴいえんど、鈴木茂さん、大滝詠一さんの作品とかも好きになっていったんです」
――松本 隆さんは松田聖子さんの曲の歌詞もたくさん書いていますが、武藤さんは松田聖子さんもお好きですよね?
「はい。松田聖子さんは、特に大好きなんです。昭和歌謡は他にもいろいろ大好きで、カバーした動画をYouTubeにアップしたり、ラジオでかけたりしています」
――YouTubeのカバー動画で松本伊代さんの“センチメンタル・ジャーニー”を歌っていましたが、筒美京平さんも名曲がたくさんありますよね。
「ほんとそうですよね。去年、筒美京平さんのトリビュートコンサート(「筒美京平の世界 in コンサート」)に出演させていただく機会があって、松本伊代さんが“センチメンタル・ジャーニー”を歌っていらっしゃったので、私も歌いたくなったんです」
――そのコンサートで武藤さんは、薬師丸ひろ子さんの“あなたを・もっと・知りたくて”を歌ったそうですが、南沙織さんの“17才”も早見優さん、松本伊代さん、森口博子さんと一緒に歌ったんですよね?
「そうなんです。『こんな奇跡が起こるんだなあ』って思いました。去年は松本 隆先生の作詞活動50周年の『風街オデッセイ2021』にも出演させていただきましたし、すごい一年でしたね」
――昭和歌謡は昔の音楽ではありつつも、「リアルで普遍的なかっこいい音楽である」という感覚も武藤さんの中にあるんじゃないですか?
「はい。『古い音楽』とか思ったことはないです。『こういう気持ちもあるんだ?』とか感じたりしますから。今の時代にはない風景とか描写も、私にとっては新しいんです」
「レトロポップ」という言葉を掲げて音楽活動をしているんです。最近は特にシティポップが大好きで、影響を受けています
――芸能界のお仕事歴は結構長いですよね。「そうですね。芸能界デビューのきっかけは子供服のモデルで、いろんな出会いを経て歌うことに辿り着きました。『歌手になりたいです』って、この世界に入ったわけではないんですけど、辿り着くべくして辿り着いた感じがあります。歌い始めた頃は何も経験がない私だったので毎日泣きながら練習していました。高め合える仲間に恵まれていましたね。そこからはずっと音楽です。振り返ってみると『音楽しかやってこなかったなあ』って思います。自分を見つめ直すためにニュージーランドに2年くらい留学したこともあって、それでも『音楽が好き』ってなったので、『この気持ちは本物だな』と思いました」
――先ほど昭和歌謡に関して「新しさを感じる」とおっしゃっていましたが、武藤さんの作品もそういう音楽ですよね。
「ありがとうございます。『レトロポップ』という言葉を掲げて音楽活動をしているんです。最近は特にシティポップが大好きで、影響を受けています。シティポップのキラキラしたサウンドを意識して作っていただいています」
――『IMAGE BOARD』に収録されている“Favorite”も、まさにそうですね。
「はい。音数が多くない伸びやかな感じのメロディが好きなので、そういうリクエストを釜中健伍さんにお伝えして作っていただきました。DENIMSさんのバンドコンセプト自体も、古いものを取り入れて新しいことをするというものなので、私と一緒なんです。私の主催イベントに出演していただいたのは、それが理由でした。DENIMSさんの音楽が大好きになったので、『曲を作ってもらえたらいいなあ』って思っていたんですよね。今回のデジタルシングルのリリースは4月29日(金・祝)で私の誕生日なので、特別な一曲になりました」
――「音数の少ない伸びやかなメロディ」ということ以外に釜中さんに伝えたイメージはありましたか?
「このシングルのテーマ自体が『自分が好きなものを詰め込む』だったので、昭和歌謡、シティポップのテイストだったりを入れていただきました。あと、歌詞に関しては私が普段使っているものをお伝えして、それを歌詞にしていただいています」
――《お風呂上がりにやっとアイスクリーム》とか、武藤さんの日常なんでしょうね。
「はい。お風呂上がりによくアイスを食べます(笑)」
――(笑)この曲、武藤さんの自己紹介になっていますよね?
「ほんとそうかもしれないですね。私の日常がわかる曲になっています。レコード風のノイズを入れていただいているところもお気に入りです。自分のグッズでも毎回アナログ盤を出しているので、レコードというのも私にとって大切な存在なんです。作詞作曲のクレジットを見て買ってみたレコードがきっかけで出会う音楽も、最近増えてきていますから」